不動産投資をするには、多額の現金を持っていない限り、金融機関からの融資が必要です。銀行借り入れの上手・下手が、将来的な資産形成に大きな影響を与えるといえます。
有利な融資を受けるためには、「銀行がどのような基準をもっているのか」「銀行の担当者が何を求めているのか」など、銀行の考え方を知っておく必要があります。
このコラムでは、不動産投資における融資の基本や、どのようにして融資審査が行われているのかを、元銀行マンの目線で解説し、有利に融資を受ける方法をお伝えします。
融資の基本5原則
まずは、「融資の基本5原則」です。
1.公共性の原則
銀行は、預金者から集めた預金を使って、融資業務を行っています。したがって、融資対象は広く社会の発展に役立つような「公共性」ある事業でなければなりません。不動産賃貸事業は地域づくりに欠かせない事業であり、賃貸事業融資はまさに公共性の高い融資と位置づけられます。ソーシャルビル・違反建築物・反社会的勢力が関与する建物に対する融資は、この原則に照らし困難となります。
2.成長性の原則
「融資をすることが、融資先の事業の健全な成長に寄与するか」という観点がチェックされます。融資先の事業が成長すれば、銀行の成長にもつながります。単に赤字を埋める目的の融資は、基本的に受けられません。既存物件が赤字の場合、融資が受けられないケースが多いのはそのためです。現在の不動産経営が赤字なのであれば、早急に黒字化ないしは売却する必要があります。
3.健全性の原則
社会性の高い銀行としては、融資先にも健全な事業活動を営むことを求めます。キャピタルゲイン狙いの「投機家」、短期間に煩雑に売買を繰り返す事業者は、ヤマッ気の多い危ない事業者として見做されます。銀行に融資を申し込みに行って「不動産投資」という言葉を使ってはいけません。一個人の資産形成目的の「投資」に融資することは、公共性の原則や健全性の原則に反するからです。銀行はあくまでも公共性の高い「不動産賃貸業」を営もうとしている「健全な経営者」に融資をするという姿勢でいます。投資や投機を連想させる投資用語は使用しない方が賢明です。
4.収益性の原則
公共性や健全性を重視する銀行であっても、利潤を追求する営利企業としての一面も持っています。融資対象についても、リスクに見合った適正な利益を確保できるかどうかが慎重に審査されます。融資を受けられるかどうかわからない段階から、金利のことを強硬に申し入れるのは、審査上得策ではありません。
5.流動性の原則
融資対象となる物件に処分性・流動性が見込まれるかどうかは重要です。最終的な与信回収に懸念の無い案件に融資がなされます。
この「融資の基本5原則」は、不動産事業者としての基本原則と相通じます。
公共性・成長性・健全性・収益性・流動性。わたしは自身の不動産賃貸事業を行う上で、様々な経営判断に迷った際、この基本5原則に照らして判断を行います。
不動産賃貸事業に融資は大きな影響を及ぼします。その融資の基本原則を知り、その原則に沿った経営を行うことが、賃貸経営の基盤を固めることにつながっていくはずです。
元メガバンク支店長 菅井敏之氏
三井銀行(現・三井住友銀行)に入行。個人・法人取引、およびプロジェクトファイナンス事業に従事した後、支店長を歴任。
48才で銀行を退職。起業し、アパート経営に力を入れる。現在は年間7000万円の不動産収入がある。
銀行員としてお金を「貸す側」、不動産投資家としてお金を「借りる側」、どちらの視点も持つため、講演やセミナーでも一躍人気講師になった。
初の著書『お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム 2014年3月)は40万部を突破。