これまで、不動産融資の担保として用いられたのはモノとしての不動産でした。しかしながら、今日金融庁が繰り返し銀行に対して示達しているのは「事業性」、つまり担保として重要なのはモノとしての不動産ではなく、不動産が生み出すキャッショフローであるということです。
路線価の高い地方の築浅RCマンションをモノとして評価した場合、土地いくら建物いくらと計算する積算評価は高くなります。販売価格よりも積算評価が高く出る、などというケースもあるため、一気に資産を拡大したい投資家に人気です。
しかしこの物件評価は、駅や中心部から遠くなればなるほど、「土地の時価<路線価」となることもあります。事業性を考えた場合、立地は重要です。積算評価の高い物件がすなわちいい物件とは限りません。銀行によっては、依然としてこの積算評価を収益不動産価格算定の根拠としているため、融資は受けたけれど入居者は入らずお金が回らない、という投資家が続出しています。相談に来られる方の中にはフルローンを前提にする 方が多く、積算評価を過度に気にされます。でも、融資は受けられたけれど返済できない、では本末転倒です。ご注意ください。
1.融資限度額の査定
収益物件の取得資金の担保は、不動産であるというより、収益物件の収益力そのものです。今後は、収益物件の担保評価の手法に収益に着目した評価手法がますます重要になってくると予想します。
(1)キャッシュフローの予想
収益不動産の融資を受ける際のポイントは、できるだけキャッシュフロー(=純収益)を正確に把握することです。キャッシュフローは最低10年以上の融資期間について予想します。
(2)融資限度額の査定
対象となる不動産が生み出す純収益をもとに融資限度額を算出する手法としてDSCR法という評価方法があります。(DS=Debt Service=返済額、CR=カバー率)
DSCRとは、借入金の返済額に対する純収益の割合のことです。
DSCR=純収益÷金融機関への返済額
この率は、銀行にとっては貸金に対する安全性を計る重要な指標となります。
DSCRの数値は通常1.2~1.5程度に設定しますが、事業予想の確実性・事業者の能力など総合的に判断して決定されます。
DSCRの数値と融資条件(金利、融資期間)および賃料(純収益)が決まると、次式により融資限度額が決定されます。
DSCR=純収益÷元利均等返済額=純収益/融資額×年賦償還率
融資限度額=純収益/DSCR×年賦償還率
となります。
たとえば、年間純収益10百万円、DSCR=1.25、金利5%、期間20年とすると、年賦償還率 は0.0802なので、融資限度額=10/1.25×0.0802=99.7百万円と求められます。
(3)中途返済の場合の融資残高の返済能力の検討
上記の通り融資額を決められたとしても、投資家が収益不動産を途中で売却したときに、残りの融資残高を転売資金から回収可能であるかも検討しなければなりません。転売の純収益で融資残高を余裕を持って返せるかについての妥当性についても判定されます。
2.担保取得の目的
一般の場合の目的は、債務不履行の時、担保物件の売却などにより債権(融資残高)の回収ができることです。収益不動産融資などプロジェクト融資の場合、担保物件が生み出す収益で、融資金の回収ができることが担保をとることの目的であり、その目的に合致するには流動性・確実性・安全性を要件として備えていなければなりません。
非流動性物件とは、売買、宅地化に法的制約のある農地・市街化調整区域内の土地などです。
不確実性物件とは、買戻し特約・仮差押えなどの設定のあるもの、訴訟中またはその恐れのあるもの、斜陽な企業城下町、管理困難な遠隔地などです。
安全性に欠ける物件とは、減価物件つまり減価・償却度の激しい物件、短期の賃貸借など。また公序良俗に反するものなどです。
3.事後管理
銀行は、融資額と担保価値の乖離を管理します。
事後管理の内容としては、
①資金使途管理
②時価の変動に伴う再評価
③担保価値阻害防止
建物設備の老朽化、火災地震による損傷、地域の衰退、嫌悪施設の新増築など、時間経過に伴う外的変化による再評価が行われます。
本年10月の金融庁レポートで初めて「メガ大家」という言葉が出され、金融庁としても大規模に賃貸事業展開を行う個人賃貸事業者に対する関心の高さが示されました。
その際、その評価業務に当たるスタッフは、窓口となった営業スタッフではありません。審査・監査などの、ウソや不正を見抜くプロです。
融資後のお金の流れが当初予定した歩留まりよりも低位に推移していれば、他の事業や消費に流れていることが予想されます。不自然なお金の流れになっていないかは、元帳を見れば一目瞭然です。入金待ちの回数が多くなることになれば、当然見方も厳しくなります。
銀行は貸したら終わりではありません。事後の管理を行っている。そのことを認識しておかなければなりません。
将来の担保価値の見方のキーワードは、処分価格ではありません。収益力・事業性です。
回収のための担保ではなく、貸すための担保。収益を生み出す力そのものに対する評価が今後ますます主流になっていくはずです。
元メガバンク支店長 菅井敏之氏
三井銀行(現・三井住友銀行)に入行。個人・法人取引、およびプロジェクトファイナンス事業に従事した後、支店長を歴任。
48才で銀行を退職。起業し、アパート経営に力を入れる。現在は年間7000万円の不動産収入がある。
銀行員としてお金を「貸す側」、不動産投資家としてお金を「借りる側」、どちらの視点も持つため、講演やセミナーでも一躍人気講師になった。
初の著書『お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム 2014年3月)は40万部を突破。