もし、あなたがひょんなことから中野という町に住むことになり
三階建一軒家を手に入れたとする。
その家には半外半内の不思議な空間もついていて──。
様々な界隈で活躍する「趣味剛者」に
中野で趣味のための家を持ったらどうするか?
かなり自由に趣味のための空間を妄想してもらう企画です。
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vol.1
曽我部 恵一さん -
vol.2
高山 洋平さん -
vol.3
大童 澄瞳さん
無駄とライバルのBOX
ミニコミ、映画のポスター、怪獣のソフビ、中古レコード、往年の名作漫画……。
中野を歩く曽我部さんの視線は、次々と棚の奥へ引き寄せられていきます。
心を動かすのは、自分を焚きつける「ライバル」と、何の役にも立たないけれど手放せない“無駄”なもの。
それらを自由に並べたら、一体どんな趣味空間ができあがるのでしょうか。
今回のHOBBY BOX妄想者
曽我部 恵一 さん
1971年8月26日生まれ、香川県出身の日本のシンガーソングライター。1990年代にサニーデイ・サービスのボーカル・ギターとしてデビューし、現在もソロやバンドなど精力的に活動を行っている。自身主宰のインディーズレーベル「ROSE RECORDS」の運営も行っている。
エンタメが好きなのは、
言い訳が効かないから。
曽我部恵一と歩く、
趣味の街・中野
半年ぶりの中野、
生活の匂いのする街
中野に来るのはいつぶりですか?
何かで来たんですよね。なんだったかな……ちょっと忘れちゃったんですけど(笑)。高円寺とか東中野に行く途中だったのかもしれない。だから、半年ぶりくらいかな。
曽我部さんから見た「中野」ってどんな街なんでしょう?
中野はいいですよね、ちゃんと生活感があって。おばちゃんが買い物してたり、子ども連れのお母さんがいたり、商店街にちゃんと個人店が残ってたり。その一方で、ものすごくコアっていうか、エクストリームな趣味の店もあるじゃないですか。外国人観光客も含めて本当にいろんな人がいて、その両方が同居してるのが面白いし、ちょっと特殊な街だなと思います。
「ツタに看板が覆われてるこの感じ、いいですねぇ」
普通の生活と、エクストリームなものが同居してる。
西荻とか阿佐ヶ谷もそうだけど、「あくまで地元の人のために機能してる街です」っていうのが大前提にあるんですよね。そこがすごく居心地いい。僕が住んでるエリアにはこういう雰囲気の商店街がないので、憧れますね。阿佐ヶ谷、中野、高円寺、西荻。中央線沿線の商店街には「生活の匂い」がある気がします。
カルチャーや世代を
超えて届くもの
中野ブロードウェイに到着しました。ここには、ありとあらゆるカルチャーがひしめいていますが、来るのは今日で何回目くらいですか?
多分10回は来てるんじゃないかな。喫茶店に寄ったり、レコード見たり、漫画を買ったり。今日はまったく仕事という感じがしませんね。本当に部屋に置きたいものを探すつもりで、気の向くままに回ってみようと思います。
曽我部さんが作品を選ぶとき、何か基準のようなものはあったりするんでしょうか?
うーん。色々ありますけど、映画でいえば基本的にはエンタメが好きですね。首がバーンって飛んだり、血がドバーって出たり、宇宙からわけのわからないものが来たり、燃えるような恋があったり。そういう映画に惹かれます。逆に「考えさせられる」みたいな作品は苦手かもしれない。だって、日々の生活だけで十分考えさせられてるじゃないですか。映画はその息抜きに行くわけだから。
最近観た中で、気に入った映画はありますか?
『シラート』は最高でしたね。あれは自分の映画史に残る一本です。できれば何も知らずに観に行ったほうが絶対楽しい。あとはジョーダン・ピールの『NOPE』も好きだし、さっきソフビ屋さんで見た『悪魔の生贄』とか『グレムリン』とか、ああいう昔のホラーも最高ですね。
「『食人族』のポスターあったら、趣味部屋に貼りたいな……」
ホラーがお好きなんですね。
好きですね。っていうか、ホラーが嫌いな人なんています?『ゾンビ』が嫌いな人が、この世にいるんですかね(笑)。
結構好みが分かれるジャンルだと思いますが……。
ホラーの何が、そんなにいいんでしょう。
やっぱりエンタメだからじゃないですか。エンタメの何がいいって、言い訳が効かないところなんですよ。面白くなかったらダメでしょう、だって。作家性の強い映画なら、「自分たちは小学生に向けて作ってないんで」って言えるじゃないですか。でも、『ゴーストバスターズ』とか『トイ・ストーリー』を作った人たちは、「これは大人向けじゃないんで」なんて絶対言わないと思うんです。そこがかっこいいし、僕もそうありたい。大人はもちろん、おじいちゃんでも、おばあちゃんでも、子どもでも楽しめる。そういうものに憧れますね。
以前、曽我部さんが病院で演奏されてる動画を観たことがあるのですが、80歳くらいのおばあちゃんが楽しそうにしているのが印象的でした。
本当に、そういうところを目指したいんですよ。「カルチャー」とか「世代」とか、そういうものを超えて届くもの。ポテトチップスって、僕がちっちゃい頃からあって、今の子どもたちも好きじゃないですか。僕もいまだに食べて「おいしいな」と思うし。ああいうものこそ「本物」だと思うんですよね。
少年誌卒業からの、
ガロへ
一番好きな漫画を挙げるとしたら、何になりますか?
うーん、難しい……。基本的には70年代の作品が好きですね。林静一さんとか、つげ義春さんとか、ジョージ秋山さんとか。なかでも『銭ゲバ』はやっぱり最高。あれこそ見事なエンタメだと思います。それから、山本英夫さんの『殺し屋1』。日本漫画の最高峰なんじゃないかな。絶対読んだほうがいいですよ。 あ、あとこれ。白土三平の『カムイ伝』は本当に名作ですね。部落問題やアイヌの問題まで扱った劇画なんですけど、かなりエグい描写が出てくる。小学生の頃、「これはやばい」とか言いながら、回し読みしてたのが懐かしいです。
小学生の頃となると、周りはみんなジャンプに夢中だったんじゃないですか?
そうですね。でも僕は、いわゆる王道の少年漫画にはあまり乗れなくて。「これは読者を喜ばせるために描かれているんだな」みたいな作り手の計算が透けて見える気がして、だんだん読まなくなっちゃいましたね。
子どもながらに、大人の作為性を感じ取った。
そっから『ガロ』に行きました。少年誌卒業からのガロ。根本敬さんとか蛭子能収さんとか、誰におもねるでもなく描いてる人たちがいることを知って、「本当に戦ってる奴らはこっちにいる!」っていう。
では、いわゆる少年漫画はあまり通ってこなかった。
そんなに詳しくないですね。……あ、でも『GANTZ』は一番好きかもしれない。あんなに怖い絵の漫画って、他にないと思うんですよ。気持ち悪いし、人の顔にもあまり表情がないじゃないですか。デジタル処理が入ってるから妙に現実っぽく見えるし、ストーリー展開も「これ、作者も先が分からずに描いてるんじゃないか?」と思わせるようなスリルがあって。それがもう、たまらなくワクワクするんです。
「せっかくならフィギュアもたくさん置きたいなぁ」
「展開が読めない」からこそ、面白いと。
『AKIRA』もまさにそう。小学校の頃に読んだけど、当時は本当にストーリーが理解できなかった。いわゆる少年SFみたいに、全部を説明してくれる世界じゃないんですよね。物語の全体像を教えてくれないまま、どんどん進んでいく。それが『AKIRA』のすごくかっこいいところで。大人になってから何度か読み返してようやく理解できた部分もあったけど、やっぱりあの「分からなさ」が魅力なんですよね。
中野にはまだ、
サウダージがある
本日最後にやってきたのは、70〜90年代の邦楽や歌謡曲をリクエストできる「J-JUKE 80's」さんです。
すげえ。ここ、絶対楽しい。あ、今かかってるの、ミノルタのCMソングですね。当時大学生だった宮崎美子さんの水着姿が話題になって、志村けんがコントでパロディするほど大ヒットしたやつ。これが普通の時間帯にテレビで流れていたんだから、昭和ってすごい時代ですよ。
たしかになかなか際どい内容です。
さて、改めて中野を散策してみて、いかがでしたか?
見るものが多すぎて、ずっと集中しっぱなしでした(笑)。でも、やっぱり中野はいいですね。それこそ昭和の雰囲気がまだ残っているというか、人の生活がちゃんと息づいている感じがする。すべてをきっちり整えるのではなくて「まぁまぁ、これでいいんじゃない?」的なゆるさを感じました。
ブロードウェイでは何を買われたのでしょうか?
ミニコミを2冊と、吾妻ひでおさんと鈴木翁二さんの漫画。あとは「たま」の滝本晃司さんが最近出したアルバムと、D-dayっていう僕が好きなバンドのソノシート。普段はもうちょっと買うんですけど、今日寄ったお店はどこも尖ってたので、いつもより点数は少なめかな。
普段から、気になったものはフィジカル(現物)で買うことが多いんですか?
そうですね。サブスクだと忘れちゃうんですよ。「あれ、なんだったっけ?」と思ったときに、もう一度たどり着けなかったりする。でも、コレクションするという感覚でもないんですよね。何年も触っていないものは売っちゃいますし。手元に残すのは、自分が「ライバルだ」と思えるものとか、純粋に「これはすげえな」って感じるものだけ。そういうものを部屋の見えるところに置いとくと、「俺もやってやるぜ」っていう気持ちになれるんです。
それは、日頃から創作のインスピレーション源として意識的に買っているということでしょうか?
もちろん、こういうサウンドを作りたいと思って、その成り立ちを調べるために聴くことはありますけど、明確にそれを目的にしているわけではないですね。というよりは、単純に好きだから映画を観たり、音楽を聴いたり、本を読んだりしている。そのなかで、自然と刺激を受けているんだと思います。
その「好き」の積み重ねが、ものづくりの土台にもなっていく。
文化に関わる仕事をするなら、いろんなものに興味を持って、知って、好きでいたほうがいいですよね。じゃないと「これは大発明だ!」と思ったものが、実際には大昔からいくらでも作られていた、なんてことになりかねないですから。それに、僕は普段バンドのグッズを売ったりもしているので、「これは本当に2500円を払ってもらうだけの価値があるのだろうか」って問い続けるのは大事だと思っていて。自分がお金を払う側でいないと、そういう感覚ってわかんなくなっちゃうんですよね。
「これ、永遠にリクエストしちゃうやつですね」
中野の街を歩いていて、印象に残った瞬間はありますか?
一番のハイライトは、ブロードウェイで漫画家の根本敬さんに偶然お会いしたことですね。僕にとって根本敬さんは、手塚治虫に匹敵するくらい偉大な存在ですから。ご本人は自らを「特殊漫画家」って称していますけど、そんな人と普通の買い物客に混じってすれ違うことができてしまう。そこに、中野という街の性格が表れている気がします。
ブロードウェイは、その象徴みたいな場所ですよね。
面白かったですね。オタク文化のど真ん中で、かなり際どいものも普通に扱われている。ああいういかがわしいものとかグレーなものが共存してるのが、本当の意味でカラフルな社会だと思うので、なくなってほしくないですね。今って、社会全体がどこか「間違い探し」みたいになってるじゃないですか。ハラスメントの境界をみんなで考えていくことはすごく大事だと思う。でも、何もかもがそれだけになってしまうと、やっぱり息苦しい。だから、ああいう緩さに触れると、少し安心するんですよね。
そういう“緩さ”って、昔は街の至る所にありましたよね。
僕が子どもの頃は、ポルノの看板がバーンと掲げられていてね。見たいけど怒られるからこっそり覗きに行ったり、捨ててあるエロ本をみんなで探しに行ったり。案外そういうところから、文化って始まっていると思うんですよね。だから今日の中野歩きは、そんな子供の頃のことも彷彿としましたね。昔ながらの看板が飾ってあったりするのも、懐かしくて。「サウダージ」とでもいうのかな。少し寂しさを含んだ懐かしさ。そういうものがまだ、中野には残っている気がしました。
取材の中で真剣に物色しながら、
お買い物も楽しみつつ
中野で見つけた思い出を語ってくれました。
「無駄なものをおきたい。
そこに思い出が詰まっている」
という曽我部さんの自分だけの趣味空間は
一体何が詰め込まれているのでしょうか?
「無駄なもの」と「ライバルだと思うもの」が
テーマの HOBBYBOXは
曽我部さんが中野で見つけたものや、
歩きながら思い浮かんだ様々なモノを詰め込んだ
カオスながらも曽我部さんの子供心が光る
空間に思えます。
曽我部さんの解説で気になるポイントを
聞かせていただきました。
POINT 1
曽我部さん
フラミンゴのピンク色は食べているものの色から来てる、そのことはご存知の方も多いと思います。しかし、動物園に移送され普通の飼料を与えられると、フラミンゴは白くなっていくそうです。その事実も可愛いし、フラミンゴの神秘的なピンク色は繊細なものなのだなあと思います。
INITIA
恥ずかしながらフラミンゴの色の由来は存じませんでした。ストーリーを知ると、色の感じ方も変わって、途端に愛着が湧いてきますね。全体的にアースカラーが基調とされている中で、ピンクがとっても可愛いアクセントになっていますね!
POINT 2
曽我部さん
鳴らせるわけないのだけど、妄想なので。好きなレコードをこんなでっかいスピーカーで爆音(と言ってもうるさくはなく、美しいビッグなサウンドで)聴いてみたい。これはヴァイナルジャンキー全員の夢かも知れません。
INITIA
普通の人とは比べものにならないほど音に触れていらっしゃる曽我部さんですが、自宅で音楽を聴く時間は、また違った意味合いがあるのでしょうか。お部屋にあると音としても、インテリアとしても、存在感が段違いですね!
POINT 3
曽我部さん
「てれびでお」と打ってカタカナ変換されなかった時、泣きそうになりました。やはり、VHSは観れた方がいい。10人の友人の中に一人はVHSを観れる奴がいたら、文化は(サブカルチャーですが)まだ維持されるでしょう。
INITIA
現代のモノの中で、失われることで泣きそうになるほど思い入れのあるモノって、私には無いかもしれません…羨ましささえ感じます…!
POINT 4
曽我部さん
サボテンの生命力は大したものです。多くを求めず、しぶとく静かに生きる。根っこが腐ったとしても、胴体だけ大丈夫なら、切り離せばまたそこから発根する。別のサボテンをくっつけたら、そのまま一体化して育っていくという寛容性。人類の理想系を、ぼくは見るのです。トゲの存在がまたいい。誰も私に近づくな、ということです。寛容なパンク精神。これぞ自分が求める生き様です。
INITIA
生まれて初めて、サボテンを映画の主人公のように格好良いと感じました。人も、人と関わりながら形を変えながら成長していくのですね…。今回置いていただいたサボテンは形が非常に可愛くて特徴的で、見ているだけでなんだかパワーももらえそうですね。
POINT 5
曽我部さん
一時期革製のソファで寝ていたことがありました、一年ほどですが。その時期、たびたび悪夢を見たのです。起きるともう覚えていないのですが。ある日、悪夢をはっきり覚えている時がありました。内容は生きたまま皮を剥がれ、苦しみに悶えるというもの。牛の皮のソファでしたが、その時初めて自分は死体の上でリラックスしたりのんびりしたり眠ったりしているのだ、と気づきました。ぼくらの生は常に、死と苦しみの上にあるのです。だからこそ生を歓び、死を畏れ、幸せを探したいものです。かしこ。
INITIA
言葉がでません。一生懸命に生きます(黙)
妄想を終えてみて
中野を歩いてみた。中野はすごい町だ。カルチャーと生活が混ざり合ってる。自分が住む街はそんなに一体化していなくて、分かれてる気がする。こういう町に暮らすと人はおおらかになるんじゃないか?なんとなくだけど、そんなふうに思った。 曽我部恵一
Photo / Keisuke Oana
Writer / Yoshiyama Hyuga
妄想HOBBYBOXとは?
この企画では中野を愛する人、カルチャーを愛する人、
倉庫という余白を愛する人の3名に趣味の街・中野を散策してもらいながら
もし中野に「趣味のためのスペース」を作るならどうするか?
ご自身の制作活動や暮らしへの嗜好、そして何より「趣味」を紐解きながら
独自の趣味空間=妄想HOBBY BOXを作っていただきました。
中野という街は不思議な場所で交通の便もよく大きなスーパーなどもあり
暮らすことに対して便利な街でありながら、ギークな趣味の街としても名前があがります。
相反する二つの状況を丸ごと飲み込んだ中野らしさについ惹かれて
人生の一部に居座ってしまう人も多い街です。
よく行く夜遅くまで空いているラーメン屋
その後なぜか立ち寄ってしまうベンチ
落ち込んだ時にたどり着く公園…
きっと誰しも経験のある、街に支えられて生きている感覚は
街がただの背景ではなく私たち自身に影響してお互いを形作っている
証拠なんだと思います。
中野という街が、人の偏愛や創造力に触れたときどんな空間が出来上がるのか
ワガママを詰め込んだ、妄想HOBBY BOXを開いてみましょう。