「居場所がない」次世代のシビアな現状を知る
PROFILE

名前
宮本 好/Konomi Miyamoto
経歴
株式会社HITOTOWA シニアプランナー ネイバーフッドデザイン事業(関西) 兵庫県神戸市出身。防災教育を推進するNPOに新卒で入社後、2019年にHITOTOWAへ転職。防災を人々の暮らしにより浸透させたいという思いを抱き、人とのつながりで暮らしの課題を解決するネイバーフッドデザイン事業を推進。児童発達支援士の資格取得を機に、社会福祉の分野に関心を持ち、現在は専門学生として勉強中。
PROFILE

名前
向山 直登/Naoto Mukoyama
部署
建築本部 建築一部 兼 経営管理本部 サステナビリティ推進室
コスモスイニシア歴
8年
経歴
静岡県出身。2018年に新卒入社。入社から商品企画課で設計監理や商品企画に携わる。学生時代にHITOTOWAでマンションコミュニティに関する取り組みを行ってきた経験を活かし、2023年ジセダイラボを立ち上げた。2024年からサステナビリティ推進室兼務となり、全社のESG経営方針の推進にも携わる。
PROFILE

名前
砂古口 真帆/Maho Sakoguchi
部署
企画開発本部 ソリューション・宿泊事業部門 企画開発二部
コスモスイニシア歴
6年
経歴
東京都出身。2020年中途入社。建築本部にて商品企画や物件進捗に携わった後、2023年から企画開発本部にて開発素地や一棟収益の仕込れに従事。学生時代にHITOTOWAとのプロジェクト活動を通じ、ハード×ソフトの重要性について考える。2023年にジセダイラボを立ち上げ、不動産を用いた社会課題解決手法を模索する。
PROFILE

名前
後藤 瑠那/Runa Goto
部署
総務人事部門 人事部 兼 経営管理本部 サステナビリティ推進室
コスモスイニシア歴
5年
経歴
静岡県出身。2021年に新卒入社。入社から自社物件の販売に携わる傍ら、「帰りたいと思える場所づくりをしたい」という思いのもとご入居後も安心してお住まいいただけるような仕掛けづくりに力を注ぐ。2023年からESG推進プロジェクトに参加したことをきっかけにジセダイラボの意義に共感、事務局として参加。
PROFILE

名前
山田 滉人/Hiroto Yamada
部署
建築本部 統括部 <一級建築士事務所>
コスモスイニシア歴
5年
経歴
茨城県出身。2021年新卒入社。建築部にて開発案件の物件担当として物件づくりに携わったのち、2023年から商品企画課<一級建築士事務所>として多様なアセットの企画設計や商品企画に邁進。社会課題に対する建築的側面からのアプローチを探るため、ジセダイラボに事務局として参加。

「『次世代』が抱える課題を従業員と一緒に学び・考える、ラボ的な活動をやっていこう」。2023年に純利益の2%をESG事業に充てる方針を打ち出し、取り組みテーマを「次世代」としたコスモスイニシアでは、遂行するためのアイデアを募集。砂古口と向山が感じたのは、そもそも「次世代」、つまり子どもや学生、当社従業員がどんな課題を抱えているかがわからないこと、また、それを事業で解決するノウハウが従業員にないということでした。
啓発・学び・実現の流れとして、ジセダイラボを提案しました。HITOTOWAさんに協力いただきながらプロジェクトを進めるなかで、1年目はインプットを中心に、2年目は事業で実現するために必要なことを模索するといったスキームを描いています。
グループ会社を含む全従業員を対象に、次世代の抱える課題に興味関心がある人を募集。応募した34名のメンバーを対象に、ジセダイラボが開催されました。
2024年度の活動内容は、月に一度のペースで、子どもを支援する各団体のオンライン講義や現地視察を受け、実状を知るというもの。2024年5月に、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえによるオンライン講義を聴講するところからスタートし、2025年2月に、最終回として活動の振り返りが行われました。
参加メンバーは10か月にわたり、子どもの居場所づくり問題、貧困問題、ヤングケアラー問題、闇バイト問題、貧困ビジネス問題などをインプットしました。

はじめは、もっとちょっとした課題だと思っていたんです。たとえば子どものスマホ依存のような。ところが、思っていた以上に子どもの抱える課題は壮絶でした。親のネグレクトの影響でスタッフに意地悪をしかけることでしかコミュニケーションの取り方を知らず、学校の先生にも煙たがられている子がいたりして……。
この例は、2024年8月、大阪市西成区でNPO法人により運営されている子ども食堂「西成チャイルド・ケア・センター」で行われた、現地視察での出来事だったといいます。
西成地区に限らず、こういった事例が日本全国に点在していることを知りました。表層的ではなく、根本に切り込むような課題解決の方法を考えないといけないんだなあと、考えさせられる1年でした。
2025年5月からは、2回目のジセダイラボをスタート予定。現在はその準備期間として、第1回のジセダイラボで従業員にインプットされた社会課題について、不動産事業を通じて解決に導く方法はどんなものがあるのかを思案中です。
たとえば、飲食業界なら食に苦しむ子どもに対してのアプローチができますが、私たちは不動産事業なので『子どもの居場所確保』ということを、事業性を担保しながら実装するのが今後の大きな目標です。『住むところがない』というのは、すべての問題の根源だとも思うので。
課題は山積み。さあ、なにから潰そうか
2月に行われたジセダイラボ最終回は、10か月間で次世代が抱える問題に対面した所感を話し合う場となり、参加メンバーからは、「なにができるかを毎回考えた」、「孤独という言葉に対して敏感になった」といった声が上がりました。

住む場所がない、教育を受けられないという課題を一定の若者が抱えているという事実が、世の中のまわりの大人に知られていないということが、社会課題としては大きいと感じました。
自分から「助けて」と声をあげてもいいんだ、とわかっている子どもたちも少ないですね。若者と子どもたちが、自分たちを支えてくれるサービスや仕組みがあることを知らないことも、課題のひとつであるように思います。

「事業×ジセダイを考える」というワークでは、各部署からは熱量の高い意見が飛び交うものの「予算や組織の関係上、実装するのは難しいかもしれませんが……」という、エクスキューズの声も多く聞こえました。

当然、事業として成立させるためには、収益につながるスキームがないと、上司を説得することも難しくなります。
事業化するハードルは高いですが、社会貢献という軸でひとつでもなにかを実行してみる。それが続いていけばサステナブルな未来につながると思います。うちの会社には、『いい人』がすごく多いんです。利益を追求しながらも、次世代の抱える課題にモヤモヤしている人の背中をグッと押せるタイミングを、常に見計らっています。
推進メンバーの熱量を保つためにも、ボランティアではなく、上司にも認識をされて評価に反映される仕組みを整えることが、私たち事務局の課題だと思っています。
2025年度に実装への可能性を感じているのは、母子家庭や住む場所に課題を抱える人向けの「アフォーダブル住宅(低所得者や中所得者層が購入や借りることができる住宅)」のトライアルや、外国ルーツの若者を対象とした観光ガイドの展開です。
当社が運営するアパートメントホテル『MIMARU』は、インバウンド客をメインターゲットにしており、多くの外国人従業員が働いています。地域の外国籍の若者に対して、地域のガイドツアーや翻訳したパンフレットをつくるといった仕事を供給するなど、他社とも協業しつつ実現できたらと思っています。
2023年からはじまったESG経営のテーマ「次世代」への取り組みが、数年前から動き出している「防災」の取り組みと肩を並べる日も、そう遠くなさそうです。
意識を変える。まずは小さな種まきから
10か月にわたるプロジェクトで事務局メンバーそれぞれに意識の変化が見られ、企画開発部との兼任で多忙を極めつつもジセダイラボの立ち上げに関わった砂古口は「1年目の目標としていた『興味関心のある種を見つける』という意味では成功です」と話してくれました。
次世代の抱える課題と不動産事業を関連付けて考えること自体が、そもそも難しいんですよね……。協業企業を募るハードルも高い。だからこそ、2025年度のジセダイラボは踏ん張りどころで、ここで軌道に乗せないと!と思っています。

私は、CSV活動に携わりたいと思って入社したので、ジセダイラボというきっかけがもらえてすごくうれしいです。次世代の問題は短期的に利益につなげにくく、当事者意識も持ちづらいのですが、なが〜い目で見ると、誰しも子どもだった時代はあるし、いずれ自分が子どもを持つかもしれませんよね。近年、こども家庭庁が発足したり社会の目が少しずつ向いてきているなかで、『コスモスイニシアが小池都知事と対談』という機会があるとしたら、この『次世代』というテーマかもしれないですよね!

設計の図面を引くなど、業務では建築のハード面に携わることが多い山田は「建築的な視点からの可能性を広げたい」という思いから当プロジェクトに参加しました。
実際に子どもの支援活動をしている方は、事業で成り立つ仕組みを考えていることはもちろんですが、それ以上に熱量が大切なんだなと。いきなり会社という単位で取り組むには難易度が高いと正直感じましたが、だからこそ、スモールスタートでも火を消さずに続けられることを探していきたいです。
人事部というポジションから、社内で発足する各プロジェクトを経営企画的な目線で見ているという後藤は、別軸で動いているプロジェクト同士をひもづけて、シナジーを生み出したいと話します。
企業人として自分がハブになることで、社内だけでなく社外との窓口を広げていきたいです。当事者意識を持ちづらい課題に対しても、社員間で当たり前に話し合う、そんな組織であり続けたいです。
都市の社会環境問題の解決に取り組む株式会社HITOTOWAの宮本さんは、当プロジェクトを俯瞰的に捉えています。
社会課題に取り組むうえでは、課題を抱える人とそこに寄り添う人が対等でないのは、あまりヘルシーな状態ではないと考えています。〈する-される〉という関係では、エンパワーメントを発揮する機会を奪うことになるかもしれないからです。そして、より多くの人を巻き込みながら、他社や他団体と協業し、解決に近づく仕組みを”一緒に”つくり上げられたらいいなと思います。
自分ひとりではどうにもならなくて、さらに、当社だけでもどうにもならない。それぐらい大きい社会課題なので、とりあえず場をつくり、考えて発信し続けることが大事だと思っています。続けていれば、他社と協業できる可能性があるかもしれない。課題に対して熱量の高い思いを持つ人にとっての、プラットフォーム的な役割になれたらと思うんです。