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2014.7.1

建築家・永山祐子さんに聞く、これからの住まい方

数年後の暮らしをイメージしながら

保川

永山さんから見て、いわゆる大手マンションデベロッパーがつくる集合住宅で「もっとこうだったらいいのに」と思うことはありますか?

永山

できるだけ“本物”の建材を使えるようになるといいですね。フローリングをプリント合板ではなくて、無垢材……もし、無垢材の使用が難しければ、厚突板にするとか。2~3ミリの厚みがあるだけで、足裏の肌触りが全く違いますし、生活するうちに出る経年変化にも温かみが生まれます。「メンテナンスフリー」を謳い文句にしているマンションも見かけますが、実際には完全にメンテナンスフリーってあり得ません。少なからず、住まいには手をかけていかなくてはいけないもの。それならば、10年後に自分たちの暮らしの跡として愛着を持てる素材を選べれば、集合住宅にも個性が表れるかもしれませんね。
 それと最近、中古マンションのリノベーションも流行っていますよね。そこにも同じ感覚がありそうです。好きな空間を自分でつくりたいと考える人のために最初からすべて入居者が決められるような……。

保川

一棟まるごとスケルトンにしてリノベーションすることはできないかというアイデアはあります。ただ、デベロッパーとしては、これまで手がけた新築で培った、住空間の快適性を実現する経験を活用して、最後の仕上げをお客さまが安心して自由にアレンジできるように整えることが、基本的な使命だと自覚しています。
 それに、「イチからつくっていいですよ」と差し出すことが必ずしもベストではないはずです。ハードルが高くなってしまうことも考えられますから。

永山

確かに、マンションを買うのと一戸建を注文するのでは全く違います。マンションを選ぶとき、早く欲しい人もいれば、ゆっくりつくり上げたい人もいます。どちらにしても、自分なりの空間を見つけたい気持ちは変わらないと思うので、どこまで関わってつくれるのか、そのバリエーションがもっと広いといいですね。例えば、マンションの中で1部屋か2部屋くらいはイチからフレキシブルにできる、コンセプチュアルなマンションがあってもいいのかなと思います。
 今、マンションで空間を自由につくり上げるなら、中古のほうがやりやすい。つまり、中古がいいからではなくて、中古じゃないと自由にならないから選ぶというだけのこと。新築のほうが圧倒的に機能的なのに、しかたがないから中古マンションになる。そういった相談を受けることもよくあります。

コスモスイニシア 商品企画担当の保川真由佳

保川

リノベーションで言うと、最近は1LDKにするケースが増えています。将来、子供が大きくなったときに壁を立てればいいという考え方ですね。仕切りがゆるくなっているなと感じます。

永山祐子さん

永山

都心部では特に居住スペースが限られていますからね。もし、敷地や建物が大きければ、客間や仏間など特別な部屋があってもいいですね。私が昔、住んでいた実家は客間があって、普段は入っちゃいけないけれど来客時だけは入れるちょっと特別な部屋でした。それも子供心にはちょっと良かったかもしれません。

保川

アンケートでは、各部屋をきちんと分けたいとか、子供部屋を確保したいと希望される方が多くいらっしゃいますが、現実的には共用廊下に面した1部屋が物置になってしまっていて、生活時間の多くをリビングで過ごすスタイルが増えています。

永山

設計時には、主寝室と子供部屋がほしいと要望されることが多いのですが、私はその段階で数年後の暮らし方を一緒にイメージしながらいろいろな考えをお話しします。単純に間取りの問題ではなくて、当たり前ではありますが、家族みんながどう暮らしていくかを大切にしたいと思っています。

永山祐子建築設計「丘のあるいえ」 Photo by Daici Ano

記憶に残る「情景」を

保川

住まい方についてはいかがですか。永山さんが設計する際にはどのような住まい方を提案するのか興味があります。

永山

よく考えるのが、みんなで共有する住宅ならではの「情景」みたいなものが、その場所ごとにあればいいなということです。それは印象的なシーンのようなものなのですが……。家の中でも同じです。その家にしかない、特別な景色をつくり出したいと思いながら設計しています。以前設計した中庭のある家では、中庭に大きな屋根がかかっていて、その屋根越しに空が見えるという1つの景色が、家族が共有するシーンになりました。子供の頃に見たそういう景色って、いつまでも覚えているものですよね。

保川

そうですね。集合住宅としての効率でしか見ていない部分を長いスパンで捉えて、10年後にも愛せるような、子供の頃の記憶を大事にできるような場所をつくってみたいですね。

永山祐子建築設計「丘のあるいえ」 Photo by Daici Ano

永山

例えばベランダは、実はそれほど出て使うことが多くありませんよね。だから思い切って借景として、室内から見て感じの良い場所につくり上げるのはどうでしょうか。今いる場所にとって印象的な空間となるならば、機能性以上の有用性が生まれる。それが新しい住まい方の1つだと思います

保川

それはマンションの専有部以外にも当てはまるでしょうか。

永山

専有部だけでなく、共用部でもできるはずです。同じマンションに住んでいる人たちで共有できる、1つの特別な風景がつくれるのではないかと思います。

保川

本日はありがとうございました。

永山祐子建築設計「丘のあるいえ」 Photo by Daici Ano

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