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2014.8.25

トラフ建築設計事務所・鈴野浩一さんに聞く、
これからの住まい方

建築にはじまり、空間から家具、プロダクト、インスタレーションの
デザインまで、多様な活動を続けてきたトラフ建築設計事務所。
その設立者のひとりである鈴野浩一さんに、これからの住まい方に
ついてお話を伺いました。
聞き手はコスモスイニシアで商品企画を担当する保川真由佳と
建築設計を担当する田中 修です。

デザイン情報誌AXIS(vol.171/2014年9月1日発行)に掲載された内容を
再編集したものです。

AXISオフィシャルサイトjiku
http://www.axisjiku.com

機能に縛られない住まいの魅力

保川

私たちが提案する新しい空間のベースにあるのは、住む人の心地良さです。コスモスイニシアのメインブランド「INITIA」は、時間の過ごし方に重点を置いて新しい住宅づくりに取り組んでいます。毎日を過ごす空間の中で、満足感というのは物の充実感ではなく、すごし方そのものが大切だと考えてきました。

鈴野

「井の頭の住宅」は社宅だったマンションの1室をリノベーションしたケースです。解体して現れたコンクリートを全体的に活かしたワンルームタイプになっています。集合住宅では、例えば、風呂の大きさは決まってしまいますよね。でも、浴槽はほんの5cmでも広くなると足が伸ばせて気持ちいい。だから、廊下と風呂を仕切る壁を7mm厚の薄い鉄板でつくりました。そうすることで、少しでも広い風呂が設置できます。その他、リビングルームの開口部に天井からのバーティカルのブラインドを採用して上には照明を仕込むなどの工夫もしています。

田中

開口部が大きく見える効果がありますね。天井も高く感じられます。少しの工夫で空間の心地良さが大きく変わるケースは数多くあると思います。最近の住宅の傾向として何か特徴的なところはありますか。

鈴野

やはり昔は、部屋が使い方を縛っていたところがあると思います。仏間とか書斎とか子供部屋とか……。現実には、子供が小さいころには子供部屋で過ごす時間は少ないし、寝室があっても家族みんなで一緒に寝ていたりする。それに今ではスマートフォンやタブレットを使って居間で仕事することも多いので、部屋に縛られなくなっていますよね。僕らがデザインした「コロロデスク」のように、家具自体が小さな部屋として機能することもある。全体を明確に仕切らない空間が求められていると感じます。

鈴野浩一/1973年神奈川県生まれ。96年東京理科大 学工学部建築学科卒業。98年横浜国立大学大学院工学 部建築学専攻修士課程修了。98〜2001年シーラカンス K&H 勤務。02〜03年Kerstin Thompson Architects 勤務。04年禿真哉と共にトラフ建築設計事務所を設立。 05〜08年東京理科大学非常勤講師、08〜12年昭和女子大学非常勤講師、10〜11年共立女子大学非常勤講師、10年〜武蔵野美術大学非常勤講師、12年〜多摩美術大学非 常勤講師、14年〜京都精華大学客員教授を務める。

 公式サイトはこちら

保川

私たちも「オープン」というコンセプトで表現しているように、あらかじめ決められた用途に縛られず、フレキシブルに広がる空間には魅力がありますね。

トラフ建築設計事務所「井の頭の住宅」 Photo by Daici Ano

トラフ建築設計事務所「コロロデスク」 Photo by Akihiro Ito

ゆるやかにつながる空間

鈴野

建て壊し寸前だったビルをリノベーションした「目黒本町の家」は、地下1階地上3階建ての古いビルでした。外階段しかありませんでしたが、2階と3階をオーナーの住宅にしたくて床に穴を開け、そこに階段をつくりました。大きな箱を置いたような階段です。箱形にすることによって四方に空間が生まれましたし、さらに箱の上の場所も使えるんです。お子さんがまだ小さかったので、階段へ上る途中のその場所がお気に入りになって、2階と3階を近づけてくれる2.5階みたいな存在になりました。階段が長いと行き来しなくなってしまいますが、ちょっとの移動でつながると、すごく距離感が縮まりますよね。子供が縁に足をかけて本を読んでいたり、お父さんとお母さんの姿を眺めていたり。

田中

キューブの角面によって空間に変化が生じますし、2.5階があることで、2フロア全体がゆるやかにつながる空間に感じられます。

コスモスイニシア 商品企画担当の保川真由佳

鈴野

ゆるくつながりながらも、あえて少し仕切っています。人はまるっきりオープンな空間だけではくつろげないし疲れてしまいますから。でも、ほんのちょっと視線を遮るだけでいい。
「港北の住宅」は、目の前に擁壁がある住宅密集地で朝から室内の照明をつけたくなるような立地でした。そのため、トップライトが光を求めるように上へと伸びていき、プライバシーも保ちます。そのために屋根がざくっと室内に入り込み、寝室やキッチンを大きく区切っているのですが、部屋として明確に仕切ってしまうと、狭くて暗くなってしまうから仕切りはありません。ダイニングとベッドの位置は近くても、実際に寝てみると顔の部分だけは壁の陰に入るので、キッチンが視界に入ってきません。視界をちょっと遮ることで居場所が感じられますよね。

保川

キッチンとダイニング空間の一体感を強めたり、皆が集まりやすいようにリビングの広さや快適性を高めたりすることで、ゆるやかにつながるという考え方は私たちも大切にしています。

トラフ建築設計事務所「目黒本町の住宅」 Photo by Daici Ano

トラフ建築設計事務所「港北の住宅」 Photo by Daici Ano