不動産市況

20201023vol. 34

コロナ禍が「住宅」と「投資」市場を活性化させている

新型コロナウイルスの感染状況は一進一退を繰り返しているが、現時点では小康状態が続いている。
政府も、感染拡大の防止に注意を払いながらも、各種のキャンペーンを本格化させるなど、緩やかではあるが、経済活動を本格化させていく方向にある。

ただ、足元の実体経済は、政府・自治体による給付金や各種の金融支援もあって見えにくいが、確実に悪化している。これを反映するように、住宅ローンの破綻や滞納が増加傾向となっている。
コロナショックは、景気を悪化させると同時に「格差社会」の進行に一段と拍車をかけている。その結果、「資産」インフレと「実物」のデフレという現象を生んでいる。この動きは、不動産市場で鮮明となってきている。

コロナ禍にあっても、不動産市場に大きな影響を与える金融環境に変化はなく、依然として超低金利と金融緩和は続いていることから、市況への下支え効果は続いている。他の産業界に比べて、需要が蒸発するといったこともなく、コロナ禍の前と比較しても、価格の急激な変化はない(図表①)。

分野による明暗はあるものの、概して、堅調に推移している。特に、住宅と投資のニーズは強く、不動産市場では、コロナ禍が住まいと投資の需要を喚起させるという現象を生んでいる。

コロナ禍で「住宅」に対する関心が高まる

感染拡大を阻止するために3密を避けることが要請され、そのためのテレワークが推奨され、会社への出勤回数も少なくなっている。その結果、自宅で過ごす時間が多くなり、「住むこと」に関心を持つ人が増えた。テレワークをするための部屋が必要となり、間取りや広さが注目されるようになった。

また、1日中部屋にいると、マンションでは上下・両隣の「音」に敏感となる。マンションは集合住宅であり、エレベーターも共用で、コロナ感染のリスクを気にする人にとっては、気がかりなことが多い。
このような要因で、中心部・駅近から郊外へ、マンションから独立型の住宅、即ち、戸建て住宅への「住み替え」需要が拡大している。

図表②は、首都圏における主に中古戸建ての成約状況だが、6月以降、業界人も驚くほどの成約が続いている。図表③は、中古マンションであるが、戸建てと同様に、底堅い動きとなっている。狭い中心部のマンションから、広い郊外のマンションへの転居は、購入も賃貸も増加している。特に、東京から湘南地域への希望者が多く、品不足感も一部では見られ、過熱している。

加えて、軽井沢や熱海・箱根などのリゾート地が、90年のバブル期を超えるほどの過熱した状態にあり、購入の反響は昨年比で5割増、2倍という月もある。湘南地域もリゾート地も、東京からは約1時間であり、上京しやすい範囲にあることから、転居・移住の希望者が多くなっている。

超低金利と過剰資金で、「資産」への関心が高まる

日本が、既に「格差社会」になっていることは周知の事実であり、政治課題となっているが、コロナ禍でこの動きに拍車がかかっている。格差の拡大は、不況の時とバブルの時に顕著となる。富裕層は、株式や不動産等の資産を多く保有していることから、恩恵を受ける人が多い。

コロナ禍で、日米欧が揃って大量のお札を刷り、配っていて、個人と企業の現預金が急激に増加している。今回の「経済」危機は金融危機ではないため、偏在しているが金余りの状況になっていて、お金の行き先が無いという、奇妙な現象も発生している。お金が行き先を探して、現在では「株式と金」の市場に流入して価格を下支え、上昇させるという構図をつくっている。実態経済と株式市場とは、全く別の土俵になっている(図表④)。

余ったお金のもう一つの行き先が「不動産」になっている。利息が無いに等しい預貯金をしておきたくないということで、安定的な家賃収入を得ることのできる「収益不動産」にお金が大きく動いている。2~3年前に比べて、利回りも上昇していることから、個人の富裕層だけでなく、企業も取得に積極的になっている。

一方では、貸店舗や賃貸オフィス、ホテルの収益力が落ち込み始めたことで、優良な物件を安く購入できる好機と捉える投資家・資産家が、満を持して待っている状況になっている。
今春以降、コロナ禍での外出自粛の要請もあり、その影響を受けて、飲食業・小売業・アパレル産業など数多くの業界が、今なお、苦境に立たされているが、住宅と不動産投資の市場は、追い風の恩恵を受けている。現時点では、「コロナ特需」で、市場は活性化しているとも言える。
ただ、コロナ感染が長期化する可能性もある。その結果、企業の業績や雇用環境の悪化が進行していくことになれば、不動産市場にも転換点が来ることが想定される。今後の景気動向には、十二分に目配りをしておきたい。

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