不動産市況

20210127vol. 35

アフターコロナ時代の不動産市場を予測

 新型コロナウイルスの感染拡大は、1年を経過しても収まらず、現時点では緊急事態宣言が発出されるなど、むしろ深刻な事態になっている。ワクチンの開発が進んではいるものの、国民の不安を解消するまでには至っていない。
 この間、日本経済は産業分野によって明暗はあるものの、総体的には厳しくなりつつある。最近では、業績の良否に関わらず人員削減をする企業も目立っていて、将来に対する厳しい事業環境を想定した動きが強まっている。
 しかし、コロナ禍はいつまでも続くことはなく、いずれ終わることになる。その後、コロナ前の状態にどの程度、戻るのかについての予想は難しいが、完全に元に戻るというシナリオはない、ということは確かであろう。
 例えば、「非接触」を求められたことで、ネット通販や宅配の便利さを知った人達が、コロナ後、リアル店舗にどれくらい戻るのか。元の水準にまで戻るとは、考えにくい。
 また、定期的に全国の支店長などが東京本社で会議をしていた企業が、従来通りの頻度で東京本社に集まるか、疑問である。オンライン会議で十分ということであれば、出張によるコスト削減のメリットは大きく、完全に戻るとは考えにくい。もちろん、企業規模・事業内容や仕事の種類によって、オンラインによる会議の適否は分かれるが、会議の方式が多様化していくことは必至と思われる。
 何れにせよ、コロナ前とコロナ後では、我々の生活や企業活動の様式に変化が生まれることになり、その影響は不動産市場にも既に波及し始めている。
今回は、2021年の不動産市場を取り巻く事業環境について解説してみたい。

景気の悪化が進行していく

 コロナ禍による緊急事態宣言や、外出自粛の要請が長期化していることで、人々の移動が抑制されている。人々の移動が抑制されたことで、お金の流れ停滞し、飲食業・アパレル業・鉄道・航空業界・旅行業界など、幅広い分野で厳しさが増してきている。現段階では、国や地方自治体等による様々な金融支援策で、表面上の倒産件数は落ち着いているものの、コロナ禍が長期化すれば、一気に増加していくことになる。既に、失業者数の増加、所得の低下が多くみられるようになった。企業の淘汰が始まっている。
 この影響で、住宅ローンの破綻、家賃の滞納が増加している。所得の低下は住宅の購買力を低下させ、高価格の住宅需要を縮小させることになる。
 また、不況時には、個人も企業も手元資金の確保を図ることから、市場に不動産の換金処分の動きが出てくる。時には、優良物件も放出され、余裕資金のある人(企業)にとっては、絶好の買い場となるが、立地や価格について、将来の市況を考えた対応が必要で、焦ってはいけない。希少価値のある不動産にフォーカスしたい。

デジタル社会が定着していく







 デジタル社会へと移行していくことは、数年前から指摘されていたことではあったが、コロナ禍によって前倒しされることになった。
 我々が想定した以上に、デジタル社会が一気に現実化したと言える。政府もデジタル庁の新設を計画するなど、今後、この動きが加速していくことは確実で、産業構造や我々の生活に大きな変化を促すことになる。
 昨年の6月以降、非接触を余儀なくされたことでテレワークが普及し、住宅市場では都心部から郊外への住み替え需要が急増し、「コロナ特需」が生まれたことは前号でも指摘したが、時間の経過と共にこの動きが活発化したことで、地域によっては品不足の状態になっている。ただし、東京でいえば、都心から約1時間前後の通勤圏での住み替えが大半となっている。
 その結果、これまでの人口の東京一極集中という現象に、変化が起きた。図表①は、昨年1月以降の東京圏における転入・転出者数の推移を示したものであるが、コロナ禍の影響拡大に伴って、7月以降、東京への転入超過数はマイナスとなり、他県や郊外への移転が鮮明となっている。テレワークにより、会社への出勤回数が減少し、「都心・駅近」という住宅購入の選択条件が、「広さ」「安さ」にシフトしている。
 次に、デジタル社会は、無店舗による商品の販売手法を可能にしたことで、店舗需要を変えたが、同時に、それを支えるための倉庫・配送センター等の賃貸物流施設の需要を急拡大させることになった(図表②)。
 更に、昨夏以降、不況の進行と、大企業を中心にテレワークが普及・定着する動きもあって、オフィスの空室率が上昇している。アベノミクスによって空室率が低下、テナント料の値上がりが続いた賃貸オフィス市場は、転換期を迎えることになった。

「格差社会」が一段と鮮明になっていく

 昨年12月29日、日経平均株価が1990年以来、30年ぶりの高値をつけた。また、今年に入ってからも、更に直近の高値を更新している。今後、景気の悪化が心配される中で、株価と実体経済との乖離もあり、高騰には危うさを心配する向きもあるが、富裕層の資金は株式だけではなく不動産市場にも流入しており、不動産価格も「希少価値」のあるものは高止まりが続いている。富裕層の手持ち資金の行き先がなく、株式・金・不動産、更には高級時計や高級外車などにも投じられている。
 一方で、失業し、所得ゼロの人も増加している。住宅ローンの支払いに窮して、自宅を手放す人も目立ち始めている。経済的理由で、離婚や自殺する人も増加傾向にあり、日本でも欧米と同様に、資産・所得の格差がコロナ禍で拡大している。
 その結果、富裕層の存在感が市場では高まっていて、希少価値のある不動産は即座に売れていくという現象が続いている。
 コロナ禍は、格差社会の進行に一段と拍車をかけるという結果をもたらした。

今後も「東京」の価値は維持されるのか?







 コロナ禍で、デジタル社会への動きが急速に進んでいくことに異論はない(図表③)。更に、過密化した東京の弊害を正す動きが出て、生活や仕事の場が多様化していくものと思われる。
 しかし、住む・働く・生活を楽しむなどの面で、東京の不動産の価値は、他の都市との比較において揺るがないものと考えられる。もちろん、アベノミクスによって暴騰した商業地やマンションの価格は、今後、調整されることにはなるが、他の都市に比べての優位性は維持される可能性が高い。
 図表④を見ても、圧倒的な存在感であり、デジタル社会の進展によって、距離や時間差はなくなるが、不動産の価値として過小評価する段階にはない。ただ、歪んだ地価や家賃の修正は、2021年以降、本格化していくことは避けられない。

コロナ禍は当面、続き、心中穏やかではない環境下での年になりそうだが、自らの人生観、ブレない判断基準を持つなど、泰然として過ごしたいものである。



不動産市況アナリスト 幸田昌則氏
ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。

TOPへ戻る