不動産市況

20240419vol. 48

「インフレ」と「金利のある」時代の不動産市場へ

日本の不動産市場は、歴史的な転換期を迎えている。
人口減少、大都市への人口流入、超高齢化社会の到来、所得と資産の格差拡大など、社会・経済の構造的な変化に加え、デフレ経済からインフレ経済への移行、更には、長期に亘る「金利のない時代」から、「金利のある時代」への移行が始まる時を迎えている。

不動産市場を取り巻く環境の変化は、複雑で複合的な要因もあって、これからの市況動向を見極めるのは難しくなっている。しかし、安倍政権と日銀の黒田元総裁下で行われてきた異次元の金融緩和政策の修正が行われ、これから先の金利の引き上げが現実味を帯びてきた。

既に、金融機関の預金金利が引き上げられている。また、新年度からは、金融機関の不動産事業者への貸付金利の引き上げ要請が見られるようになってきた。

同時に、これまでの「誰にでも、いくらでも融資する」という姿勢は消えて、選別融資や減額融資が目立つようになっている。こうした変化の動きは明らかで、不動産市況への影響は必至と言える。十数年間に亘る異次元の金融緩和によって続いてきた需要の拡大と価格の上昇が、鈍化していくことになる。ただ、現段階での金融による影響は少なく、緩やかな変化にとどまっている。

さて、今回はまず、国土交通省が3月26日に公表した「24年地価公示」について、解説をしてみたい。

・全国の全用途平均は、2.3%上昇した。
 目立った上昇を示したのは、大手半導体メーカーの工場が進出する地域で、用途を問わず、地価の上昇が著しかった。

・3大都市圏や札幌・仙台・広島・福岡などの地方中核都市の中心部・周辺部の上昇が目立った。

・しかし、地方圏の多くの地域では、下落傾向が続いていて、人口減少、経済の弱体化を反映した動きとなっている。地域・地点による地価の格差拡大が進行している。

・首都圏での地価は、図表①で示されているように、上昇傾向が続いている。
図表①
・東京都心の商業地については、地点によっては横バイや2020年比で低くなっているところも見られる。
横バイや下落が見られるところでは、価格暴騰によって事業化できない水準に達していることが挙げられる(図表②)。
図表②
・「東京23区に下落なし」と表現した新聞社(報道)もあったが、23区内での住宅地価の格差拡大が一段と進行している。

地域・地点による格差拡大は、全国各地で進行しているが、この背景には、日本では格差社会の進行が加速していることが考えられる。

図表③は、東京23区の住宅地価を示したものだが、都心部の千代田・港・渋谷・中央区と、江戸川・葛飾・足立区とでは、大きな差異がある。
図表③
図表④は、東京23区別の「平均給与ランキング」だが、図表③と比較してみると、その関係性が理解できる。
更に、平均給与の前年比の伸びを見ると、トップの港区では24%となっているが、最下位の足立区は3%にも達していない。
図表④
この表からも、「富める人はますます富み、貧しき人はますます貧しくなる」構図が浮かび上がってくる。個人間・企業間の所得や資産の格差拡大が、地価にも多大な影響を与えていることがわかる。

この光景は、資本主義という体制下では、更に続いていくことになる。
昔から、不動産業界内で「金持ちが欲しがる土地は高い」と言われてきたが、その背景にも通じるものだと言える。
以上、2024年の地価公示について、解説をしてみた。
次に今年度前半の市場動向を展望してみよう。

・価格については、東京都心・駅近の物件に値崩れはしにくいものの、更なる上昇は期待しにくい

その理由は、既に経済的な合理性を超えた価格水準にあること。
また、地価については、建築コストの高騰(図表⑤)が、今後、地価の押し下げ要因になっていく可能性がある。更に、日銀による金利引き上げの動きが実現することになれば、価格調整を余儀なくされる。
図表⑤
・「売却物件」が増加していく

景気や金利動向にも左右されるが、高齢化社会は多死社会でもあり、死亡による所有不動産の売却増加は続くことになる。また、インフレ、人手不足、円安など、様々な要因で経済的に困窮する人(企業)が出て、不動産を手放すことになる。何れにせよ、人口や就業者数の減少というメガトレンドの中では、売り物件の増加は確実と思われる。

・住宅需要は減速、投資・節税需要は底堅く

インフレの進行で、住宅の主たる若年層の購買力は低下している。少々の賃上げでは、購買力は高まらない。加えて、建築費の高止まりは当分の間、続いていくことから、購入意欲は弱くなり、様子見、買い控えの姿勢が強まる。

一方、インフレや金利上昇とは無縁の富裕層・高額所得者の購入は続く。しかも、買い増しが多くなる。ただし、株式市況を見ながら判断する人も出てくるものと考えられる。

何れにしても、2024年度前半の市況は、インフレの進行の度合いと金利動向、金融機関の融資姿勢に影響されるところが大きい。

不動産市況アナリスト 幸田昌則氏
ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を全国で多数行う。
市況予測の確かさに定評がある。
2024年3月「不動産バブル 静かな崩壊」(日本経済新聞出版社)を上梓。

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