不動産市況

20240119vol. 47

2024年の不動産市況予測

2023年は、政治・経済における不透明感が、世界的規模で強まった年となった。特に、経済面においては、インフレの進行が欧米に次いで日本でも顕著となった。その阻止のために、欧米では政策金利の引き上げが数回に亘って行われた。その結果、米国の住宅ローンの金利は7%台にもなった。住宅市況に大きな影響を与えることになり、価格の調整が鮮明となった。ドイツ・フランス・北欧でも、住宅価格が下落に転じたことが報じられている。
また、米国ではテレワークの普及・拡大に伴い賃貸オフィス需要が縮小・空室の増加が続き、ニューヨークやサンフランシスコなどの主要都市では、空室率が20%前後に達してビルオーナーの経営悪化、金融機関の不良債権が増加しているという。
何れにせよ、コロナ禍、ウクライナ紛争、更にはハマスとイスラエルによる戦禍で、世界そして日本の経済も一段と混迷している。2024年、日本の不動産市況は、こうした混乱に起因するインフレと金融動向によって、波乱含みの展開となるものと考えられる。
今回は、2024年の市場動向について予測してみたい。

インフレで所得・資産の格差が拡大。不動産市場では「2極分化」に拍車

(図表①)


2023年は、電気・ガス・ガソリンに加えて、食料品などの生活必需品の高騰で、家計が圧迫された。特に低・中所得者層には厳しく、「エンゲル係数」という言葉を久々に耳にすることになった(図表①)。政府による各種の補助金もあって、公表される消費者物価指数は低く抑えられているが、生活者の実感としては、物価の上昇率は、年率で2桁を超えている。
その結果、2023年の夏以降、住宅購入の主要顧客である若年層は、インフレによる支出の急増によって購入が難しくなりつつある。販売価格の高騰もあり、住宅需要が減少、売れ残りも出ている。超低金利を追い風に、需要の拡大・価格の高騰が続いてきたこれまで市場の構図が崩れ始めている。2024年は、住宅、そして住宅地の価格調整の年になるものと考えられる。
一方、インフレの進行による生活苦は、富裕層・資産家などにとっては無縁のものであり、コロナ禍によって手元資金がむしろ増えていることから、今後も引き続き、余裕資金を不動産の購入に充てていくケースは多いと考えている。

(図表②)


インフレは、「富める人が、ますます富む」という図式を生んでいる。図表②は、日本の株式の時価総額を示したものであるが、低金利下で増加傾向が続いている。同時に、近年では好況企業の株式配当金の増額も数多く見られ、資産家にとっては好ましいことが続いている。ちなみに、不動産市場では上昇した株式を売却して、収益物件や軽井沢のリゾート物件、都心のマンションを購入する例も出ている。

(図表③)


さて、日本でも富裕層(人数)の増加傾向が続いているが、大都市圏だけでなく、地方圏でも高額所得者が多くなっている。スーパーリッチ者も珍しくない(図表③)。

(図表④)


(図表⑤)


こうした富裕層の方々の不動産購入目的は、安定した賃貸収入だけでなく、相続などの節税を目的とした取得も多くなっているが、人によっては「希少性のある不動産には糸目を付けない金額での購入」姿勢も見られる。
図表④⑤で示されているように、現在の日本の相続税制を考えると、富裕層の節税対策としての不動産購入は今後も衰えることはないと言える。

2024年、不動産市場の注目は「賃貸オフィス」

(図表⑥)


コロナ禍が収束に向かっているが、東京圏のテレワークによる働き方は定着してきた。企業や職種によっては、コロナ禍前の出勤形態に戻りつつあるが、全体としては完全には戻る気配はない。一方、超低金利・金融緩和によって、東京圏では再開発やビルの建て替えがラッシュとなりオフィスや商業施設の大量供給が行われた。融資の状況がそれを示している(図表⑥)。

(図表⑦)


ただ、日本では就業者数の減少が続き、更にはテレワークなどの新しい働き方によって、オフィス需要全体は縮小傾向が強まっている中での大量供給となってしまい東京圏での需給緩和が一段と進行している(図表⑦)。
今後については、空室率の上昇、テナント料の調整が本格化していくことは必至となる。今回の金融緩和は不動産価格の高騰にとどまらず、オフィスビル・物流施設の大量供給に拍車をかけ、その後需給緩和をもたらすことになった。
今後は、オフィスや店舗ビルの収益の悪化が想定され、最終的には商業地価の見直しが始まるものと思われる。

不動産も「質」が厳しく問われる時代に。立地や管理が重要に

近い将来、東京圏でも人口減少、就業者数の減少によって、住宅やオフィスの需給は緩和されることになる。即ち、「足りない状況から、余る時代へ」と環境が一変してしまう。このことは、政府の大きな政策転換があればともかく、確定している将来予測である。
供給が需要を上回ることになれば、「質」へと向かうことは言うまでもない。「不動産の質」ということになれば、究極のところ「立地」ということになるが、その中でも、地下鉄などの公共交通機関が集積している地点となる。その集積度合いの高いところと、そうでないところとで、大きな格差が生まれることになる。
「量から質」が、一段と重要視される動きが加速していく時を迎えている。そして、その「質」を長期間、維持するため、「管理の質」も大切であることは言うまでもない。

不動産市況アナリスト 幸田昌則氏
ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を
全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。

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