日本政府観光局によると、8月の訪日外国人全体の客数は約21万人となり、全体ではコロナ前の2019年同月の85%にまで回復したが、中国は約36%にとどまった。福島原発の処理水放出への反発の影響もあったと考えられるが、従来までの水準に戻るか懸念される。
しかし、日本の90年不動産バブル崩壊以降の経済状況を辿るようなことになれば、元に戻ることは期待しにくい。
ただ、中国国内の富裕層は多く、日本と同様な状況に陥るか否かは、わからない。
●日本の不動産市場における中国の存在感は
ここでは、それぞれの地域で、地元の不動産事業者から聞いた生の声を記してみたい。
①関西圏でも、収益物件の動きは好調で、高額な収益物件の3分の1は、中国系の投資家が購入している。(大阪)
②中国の不動産市況の低迷からか、中国資本の大阪・京都への投資が活況を呈している。(京都)
③京都の中心地点では、マンションの価格水準は高値で張り付いた状態を維持しており、億を超えると中国系の人が買い支えるために、落ちて来ない。(京都)
④東京でも、豊島区池袋では、駅徒歩5分以内の区分マンションの購入の問い合わせは、9割以上が中国人となっている。(東京)
⑤軽井沢も、中国人の購入希望者が少なくない。(軽井沢)
このような事例は、福岡市などでも聞かれるが、こうした背景には、収益を目的とした購入だけではなく、中国国内の政治情勢を考えての取得だとも推測される。
ただ、夏休み明け、京都市内の不動産会社からは、「9月に入ってからは中国人からの投資需要は急減した」「問い合わせがゼロになった」との話を聞いた。
これらを総合してみると、中国における不動産バブルの崩壊が顕在化し、それを契機に中国経済が低迷期に入ることが想定される。
バブル崩壊で、既に、個人・企業の債務が膨らんでおり、デフレ経済に陥る可能性は否定できないと考えている。
ただ、その影響がどのように及んでくるのかは、定かではない。今後の動きに注目をしてみたい。
●今年の基準地価から見た日本の不動産市場
さて、9月19日に国土交通省より今年の基準地価が発表され、全国平均は2年連続の上昇となったが、地域・地点による格差拡大、二極化が一段と進んでいる。
主たる動きを、以下に挙げてみた(図表②~⑤)。
❶コロナの収束、インバウンドの復活で、商業地価が上昇。
❷都心部など、一部の地域の上昇が平均値を押し上げた。地方圏では中核都市の上昇。
❸地方圏、郊外では下落傾向が続いている。
❹企業の工場建設、都市の再開発地域での上昇が目立った。
❺地方中核都市の中心部は、バブル価格に。
今年の基準地価は、既に過去のものであり、現在の市場での取引価格は既にピークアウトしている。
金融緩和・超低金利で、日本の地価上昇は、大都市圏では10年間続いてきた。近年では、マンション・建売住宅等のデベロッパー、ファンド、ハウスメーカーなどが大量に用地取得を行った。
この業界内の土地取得競争が、地価上昇に拍車をかけた。一部には、採算性を考慮しない高値買いも見られた。
その結果、図表⑥⑦に見られるように、売れ残りが急増して、現在では住宅・収益物件・土地などの価格調整局面に入っている。
不動産市況アナリスト 幸田昌則氏
ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を
全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。