まず、本題に入る前に、既に発表された今年の「地価公示」について、解説・論評をしておきたい。
今回発表されたものは、1月1日時点のものであるが、実際は昨年のデータであることを確認しておきたい。年初からの地価動向は、既にピークを打ち、現実の取引においては、立地等に「希少価値」があるものを除いては、調整されている(図表①)
取引現場では、買い手からの指値が通るようになっている。従来までの売り手市場から、一部では買い手市場に移行している。今年の地価公示に見られた点を列挙してみると(図表②③④)
(図表③)
❶全国・全用途は2年連続で上昇したが、地域・地点による格差は拡大している。
❷大都市中心部は上昇、郊外は下落が目立つ。ただし、東京周辺部の住宅地価は上昇。
❸地方中核都市である札幌・仙台・広島・福岡市の上昇幅は拡大した。
❹物流施設・工場用地の需要が高まり、工業地価の上昇が目立った。
地価公示で上昇した住宅地に関する要因の多くは、建売事業者などのデベロッパーと、買取再販業者等の不動産業界による土地の高値買いの結果であり、エンドの顧客によるものではない。今後も同様の動き(上昇)が続いていく可能性は低い。さて、本題について解説をしてみたい。先ず、インフレの進行が著しい日本の不動産市況について列挙してみると、
①低・中所得者層は、諸物価の値上がりで家計が厳しくなり、住宅ローンや家賃の支払いに窮する人が増加している。
購買力が低下したことで、住宅取得が難しく、計画を見送る例も多くなっている。その結果、コロナ特需で減り続けてきた住宅の在庫は、需要の一巡も加わり、増加傾向に転じている(図表⑤)。
②インフレは、所得・資産の格差拡大を生んでいる。また、希少価値を求める動きが、より一層、活発になっている。
富裕層へのインフレの影響は僅かであり、富める人は、ますます富を積み上げて、その余裕資金の多くが不動産投資にも向けられている。節税目的の購入も多く、利回りよりも立地・眺望等に希少性のある高額物件を物色している。その結果、限られた都心物件の売れ行きは早い。
③インフレもあって建築コストが高騰し、デベロッパーや買い取り業者の利益確保が難しくなっている。
用地の高騰に加えて、資材の値上がり、更には人件費も上昇し、新規住宅の供給が困難になると同時に、事業全体のコストアップで、利益の低下が目立ってきている。
また、建築コストの高騰は、賃貸アパートの事業計画を断念したり、先延ばししたりする事態を招いている。
このように、インフレの進行による影響は、不動産市場に広く及んでいる。
次に、不動産市場の行方に深く関わる金融動向について考えてみたい。
黒田日銀総裁下での10年間の異次元の金融緩和の恩恵を、最も享受したのは、言うまでもなく不動産市場である。特に、超々低金利の効果は大であった。この10年間で需要は拡大、土地・住宅など全体的に価格を急騰させることになったが、経済全体を見ると、長期の金融緩和政策によって歪みも多く出ているとの専門家の指摘は少なくない。新総裁も同様の認識だと思われるが、これまでの金融政策を変える方法とタイミングについては、現時点ではわからず、今後を見守るしかない。
ただ、繰り返しになるが、金利と不動産価格についての関係で言えば、金利の上昇は不動産価格の低下につながることになる。また、金融の引き締めは、住宅・不動産全体の需要を縮小させる。何れにせよ、従来路線が大きく変更されれば、不動産市場にとっては向かい風となる。
一方、これまでの路線を引き継ぐことになれば、不動産市況は減速しつつも底堅い動きが、当分の間、続くものと思われる。
最後に、今後の市況動向に大きな影響を与えるのは、インフレの進行が端緒となる金利の引き上げである。ここまでの「金利のない時代」から、「金利のある時代」に移行することになれば、不動産市場は縮小を余儀なくされる。
金融機関の融資姿勢には、これから先、一段の注意を要する時代となった。
不動産市況アナリスト 幸田昌則氏
ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を
全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。