不動産市況

20220413vol. 40

住宅特需は一服。「富裕層と法人」の投資意欲は衰えず

コロナ禍はまだ続いているが、ロシアによるウクライナ侵攻という事態が生まれたことで、政治・経済など、多方面にその影響が出ている。いずれ、日本の不動産市場にも波及してくる可能性は否定できない。その理由としては、顧客の購買心理を考えたとき、立場によっては様子見をする人も出てくるし、一方では、絶好の買い場が来たと判断する人もいるだろうと推定できるからだ。
今後、コロナ禍、ウクライナ問題、そして金融動向等、複雑で不透明な市場環境となることは必至で、これらの動きを注意深く見なければならないと考えている。昨夏までの一本調子の需要の拡大・価格上昇には、すでに変化の動きが出ている。
本稿では、市場の実態と注目すべき動きについて解説をしたい。

コロナ禍による住宅特需に一服感

この2年ほど、住宅市場は大活況を呈してきた。

特に、大都市圏では、コロナ禍で人々の「暮らし方」や「働き方」が大きく変化してしまった。外出自粛が要請されて人流が著しく減少し、仕事ではテレワークが普及・定着したことで、多くの人が自分の「住まい」に関心を持つようになった。賃貸住宅から持ち家へ、都心のマンションから郊外の戸建て住宅への住み替え需要が強まり、住宅の特需が生まれた。

 

この現象は欧米でも見られ、ウッドショックと呼ばれる建設資材不足をもたらすことになった。その後も、世界的規模でのサプライチェーンの混乱や半導体の不足は、住設機器の品不足という現象を引き起こし、住宅産業界の経営問題にまでなっている。

(図表①)

しかし、住宅需要の拡大は、アベノミクス政策が始まって以降、10年近く続いていて、コロナ禍で需要拡大に拍車がかかったと見ることが出来る。コロナ禍の住宅特需は、需要の先食いをしてしまったとも言え、今では一段落したと思われる。

図表①で見られるように、流通市場では成約件数の減少傾向が顕著となっている。

 

また、顧客の質の低下によって、金融機関からの融資が厳しくなっていることもあり、住宅需要は拡大から縮小へと、転換期に入っている。

今後についても、人手に加え各種の資材も不足していることから、住宅価格は当分の間、高値水準での推移が想定され、その価格に顧客が追い付けない状況が続くものと考えられる。

「富裕層と法人」の不動産投資は衰えず

住宅需要の減速傾向とは対照的に、不動産市場での収益物件を求める動きは、依然として続いていて、衰えが見られない。その結果、希望条件に合う物件が極度に不足している。

その主な購入者を見ると、個人では富裕層と、企業などの法人となっている。しかも、彼らの多くは既に多くの収益不動産を保有していて、このタイミングで「買い増し」をしている。新規購入客は少ない。

一般サラリーマンからの関心も、相当に高いのだが、融資が得られない状況にあり、金融機関の融資先の選別による結果だと言える。

(図表②)
(図表③)

(出所)田中貴金属工業、日経平均株価

 

一方、買い増しをしている個人の富裕層は、コロナ禍による格差社会の進行で、昔に比べて増加している。
図表②で示されているように、高額所得者数は、リーマンショック以降、増加している。ここ数年間は、株価・土地や金などの資産価格の高騰で、ますます裕福になっている(図表③)。
最近では、利回りが低くても希少性の高い不動産には、高額でも引き合いが多い。その背景には、節税目的の購入があり、価格の押し上げ要因にもなっている。都心のタワーマンションなどでも見られる。
また、富裕層と並んで、投資市場では法人(経営者)の取引も多く、その存在感は一段と増している。コロナ禍が長引くことで、企業の業績格差も拡大した。好業績の企業が本業とは別に、新たな収益源として収益不動産の取得に積極的になっている。同時に、節税効果も享受でき、一石二鳥を狙った動きと言える。一方では、業績悪化によって、新たな事業として収益が見込める不動産オーナー業へと向かう企業も少なくない。オーナー業のメリットとしては、人手が要らず、安定した収益が即時に得られることがある。即ち、事業推進に当たって、事業内容がシンプルで容易、人手が少なくて済むため、マネジメント労力が殆どかからないということである。従来からの事業の将来性を考えた時、事業構造の転換が迫られる企業が、コロナ下で多くなっている。鉄道や百貨店などは、その好例と言え、業績の良否に関わらず、不動産への関心は高いのである。

 

さて、不動産購入の魅力には、今後、想定されるインフレにも強いということも挙げられる。一般的には、実物資産である不動産や金などは、インフレ経済下では追い風になる。ただ、注意しなければならないのは、これからの「金利」の動きである。金利の上昇は、不動産や金には逆風になると言われている。

(図表④)

図表④は、既に上昇へと舵を切り始めたアメリカの長期金利の、昨年までの推移だが、循環論的にも超長期のサイクルとしては、上昇トレンドへ転換するとする論者もいる。

長年に亘って超低金利政策・金融緩和政策が採られ、「日・米・欧」共に大都市の不動産価格は上昇してきたが、今後は日本でも、日銀の政策は現段階では変わらないものの、金融情勢の変化には注意をしておきたい。

ただ、金利の上昇によって不動産価格の調整があったとしても、不動産の価値はその収益力、それを担保する希少性にあることは忘れずにいたい。

コロナ禍の長期化で景気の二極化が一段と一段と進行していけば、優良な不動産が市場に出てくることになる。それは、絶好の買い場になる。不動産の価値を見抜く力が求められる時だと言える。

 

不動産市況アナリスト 幸田昌則氏
ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。

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