不動産市況

20210721vol. 37

広がる格差と二極化する不動産市場

 新型コロナの感染拡大が始まってから、既に1年半を超えたが、未だに収束への道程は見えていない。感染症の専門家は、当初からパンデミックの終焉について3年程と予測していたが、その説に従えば、現在の地点はその中間点と言える。
 この間、コロナ禍によって日本でも世界でも、社会・経済の在り方が激変し、その影響は住宅・不動産業界にも及んだ。ここでは、それらの実態を整理・解説したい。
先ず、コロナ禍がもたらした社会現象を挙げてみると、

❶人々の移動が制限された
その結果、旅行・飲食・衣服等の個人消費が低迷し、その余ったお金が株式や不動産への投資にまわり、「資産バブル」を生んだ。

❷景気は産業分野によって、好不況が二極分化した
コロナ禍が追い風となった業界・企業と、逆風となったところで明暗が分かれた。

❸デジタル社会に拍車がかかった
既に、インターネット社会が進行しつつあったが、感染拡大阻止のために「非接触」が求められたことで、デジタル技術が一段と進展した。その結果、リモートワークが普及し、大都市では住宅の選択肢が拡大した。郊外の戸建て住宅を希望する人が増加した。

(図表①)



(図表②)



❹「資産や所得」の個人間の格差拡大が進行した
コロナ禍で大量に供給された余剰資金が株式や不動産市場に流入し、これらの資産の価格を押し上げ、「持てる人は、ますます富み、持たざる人は、ますます貧者になる」構図が生じた。富裕層は、クラシックカーや高級時計の購入にも出現している。車で言えば、トヨタの2000GTというスポーツカーが8000万円から1億円で評価されているという。

資産格差は、地域や年代別でも見られ、様々な格差現象を生んでいる(図表①、②)。
コロナ禍は多くの新しい現象を生んでいるが、人々の生活や人生観にも変化をもたらしている。
次に、住宅・不動産市場にはどのような現象をもたらしたのか、列挙してみたい。

(図表③)



(図表④)



❶「住宅特需」が生まれた
人々の基本的な生活に必要なものは、言うまでもなく、「衣・食・住」であるが、コロナ禍は、「医・職・住」への関心を高めた。感染を回避するためにリモートワークが求められ、自宅で過ごす時間が増えたことで、従来までの住宅購入の条件にも変化が見られ、通勤の利便性を最重要視する姿勢から、住宅の広さ、生活環境に重きを置く人も出てきた。ただ、依然として、都心・駅近を求める人は多く、「住宅取得の条件が多様化した」と言える。
同時に、富裕層が大半であったリゾート物件やセカンドハウスへの関心は、テレワークの普及で、30~50歳までの幅広い年代層も加わり、需要が一気に高まったことで、軽井沢などの不動産価格は急騰が著しくなっている(図表③)。また、都心の広めの高級マンションも、富裕層が購入し、在庫は急減して品薄感が出ている(図表④)。

(図表⑤)



❷変わらぬ超低金利で、全国的に不動産投資は活発化している
家計の預貯金は、日銀から統計が発表される度に積み上がっているが、超低金利下では利子所得は極めて少ない(図表⑤)。そのため、富裕層だけでなく、安定収入が見込める不動産投資に関心が強まっている。
地方圏では、2千万円前後の高利回りの中古アパートは品不足の状態になっている。東京都心部では、希少価値のある小口化商品も品不足の状態が続いている。
しかし、一般人と富裕層では、投資姿勢に違いがある。前者は、立地条件は重要視するが利回りへのこだわりが強い。一方、富裕層や不動産の本質を知る人は「希少性」を重視する。前述したクラシックカーや軽井沢の限られた地点が驚くほどの価格で取引される要因の一つは、その希少性にあり、格差社会では今後、この傾向が顕著になっていくものと思われる。「希少性」が経済的合理性を超えて取引される時代になった。
高名な経済学者のアダム・スミスは、「水」は生命に関わる重要な資源だが、貨幣の「交換価値」は低いと説明している。しかし、ダイヤモンドが無くても人は生きられるが、「交換価値」は高い。それは、ダイヤモンドの「希少性」に在ると説明している。
超低金利と格差社会の進行が、「希少性」を更に高く評価する背景となっているように筆者には思える。

❸賃貸オフィス・店舗などの商業施設を、苦境に追い込んでいる
コロナ禍では、非接触が求められ、外出自粛も既に1年半超となっていることから、影響を受けたテナントの退去・廃業は多く、需給は悪化している。ただ、こうした時期だけに、良い条件で借りられることもあることから、ポストコロナを見越して借りる企業も散見されるようになってきた。しかし、オフィスも店舗も、デジタル社会の進展もあり、従来のままでの経営では難しくなるものと考えられる。
オフィスや店舗とは対照的に、デジタル社会の進展で「物流施設」の需給状況は良好である。ただ。このまま供給が続けば、いずれはホテルと同様に過剰になる危惧もある。

❹突然に出現した「ウッドショック」現象
コロナ禍は「住宅特需」を生んだが、海外発の「ウッドショック」は、住宅供給にブレーキをかけることになった。コロナ禍からいち早く(?)脱却した米国と中国では、超低金利の住宅ローンを利用した住宅購入が活発化したことで、「木材」が品不足、価格が暴騰する事態となった。その結果、木材の大半を輸入に依存してきた日本では、木材の輸入が困難となり、今後、新規住宅の供給の急減が懸念されることになった。既に、品不足から価格の上昇も著しく、住宅産業界では、淘汰される危機感も見られる。一方、ウッドショックで新規住宅の供給が難しくなることから、中古住宅への需要が一段と強まり、価格上昇へと向かっている。
ただ、住宅購入希望者の取得能力を超える価格水準になると、需要は頭打ちになってしまうだろう。

(図表⑥)



 最後に、コロナ禍は、個人間の所得格差、企業間の業績格差の拡大に拍車をかけたが、不動産市場では、このことで市場が過熱してきたと言える。つまり、売り主と買い主がバランスよく市場に出現したことで、取引量が拡大する結果をもたらしたのである。
 需要を拡大させたもう一つの要因は、超低金利と金融緩和であり、これらの金融動向が不動産市況の今後の鍵を握っている。
 アメリカを例にとれば、金利の低下が、昨年までは長期にわたって続いていたが、今年に入って転機を迎えたように見える。図表⑥は、循環論的な動きを示していることを指摘したグラフであるが、コロナ禍が収束しつつある時期とリンクして上昇に転ずる可能性は否定できない。
 筆者は金融の専門家でもなく、予想はできないが、国内においても、コロナ禍での緊急避難的な資金提供の制度が一段落し、個人や企業の破綻が急増することになれば、貸出先を厳選する金融引き締めの動きが出てくることも想定される。その時には、アベノミクスから続いてきた不動産市況が、転換期を迎えることになる。今後の金融機関の融資姿勢に注目しておきたい。


不動産市況アナリスト 幸田昌則氏
ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。

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