税務

20210423vol. 36

配偶者居住権について

2013 年9 月4 日、非嫡出子の相続割合が嫡出子の2 分の1 とされた法律は違憲であると最高裁判所が判断しました。この判決を受け、2013 年12 月11 日に民法が改正され、嫡出子と非嫡出子の相続割合は同等になりました。

この改正が及ぼす社会的影響に対する懸念や配偶者保護の観点からの相続法制の見直しの必要性など、様々な問題提起がされました。

そのなかでも、非嫡出子の法定相続分が増えたことより居住権が脅かされるようになった配偶者を守る必要が出てきました。その結果、2020 年4月に配偶者を守る権利として、「配偶者居住権」が施行されました。徐々に配偶者居住権に関する情報が充実し始め、相続税の試算をする際には、考慮すべき論点になってきました。改めて、配偶者居住権について見ていきましょう。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が相続開始時に被相続人が所有する、もしくは被相続人と配偶者が共有する建物に居住していた場合、一定の要件を満たすと終身または一定期間その建物を無償で使用することができる権利のことです。

配偶者居住権の種類と登記手続き

配偶者居住権には、配偶者短期居住権 と 配偶者⾧期居住権があります。

「配偶者短期居住権」
配偶者短期居住権とは、遺産分割により、その建物の帰属が確定するまでの間、または相続開始のときから6 ヶ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、引き続き無償でその建物を使用できる権利になります。また、配偶者短期居住権は、登記手続きは不要になります。

「配偶者⾧期居住権」
配偶者⾧期居住権とは、配偶者が相続開始のときに居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身または一定期間、配偶者にその使用を認める法定の権利になります。一般的に、配偶者居住権とは配偶者⾧期居住権を指します。また、配偶者居住権は、遺言または遺産分割協議等で取得し、法務局で設定登記する必要があります。

配偶者居住権の成立要件

配偶者居住権が認められる要件(民法 1028①)は以下のようになります。
(1)配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していたこと
(2)次のいずれかの場合に該当すること
① 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされた場合
② 配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合
(3)被相続人が相続開始の時において居住建物を配偶者以外の者と共有していないこと

配偶者居住権のメリット

持ち家に住み続けることができる
これまでは、高額な相続税の支払いのために被相続人の持ち家を売却することで納税資金を調達するケースがありました。結果として、配偶者が家を失ってしまうことになりました。配偶者居住権により、相続発生後も残された配偶者が被相続人の持ち家にそのまま住み続けられるようになりました。

生活に必要な現預金も確保できる
相続財産として家を相続したことにより、現預金を相続できず生活が苦しくなるというケースがありました。そこで、配偶者居住権により、家を「居住する権利」と「所有する権利」が区別され、居住する権利を引き継ぐことにより、家を失わずに、現預金も相続しやすくなりました。以下の具体例を見てみましょう。

例えば、相続人が配偶者(妻)と子ども1 人で、自宅の評価額が1,000 万円、現預金が2,000万円、遺産の合計が3,000 万円だとします。
それぞれが相続する財産は、全体の2 分の1 であるため、妻と子で1,500 万円ずつとなります。
妻が自宅1,000 万円を相続した場合、現預金の取り分は500 万円のみになります。この場合、妻が老後の生活が苦しくなるかもしれません。

そこで、配偶者居住権は、「居住する権利」と「所有する権利」を区別して相続財産にできるため、配偶者居住権の評価額が500 万円、所有権が500 万円であった場合、
居住権500万円と現預金1,000 万円を相続することができます。自宅と老後資金の両方を確保できる
点、配偶者の生活を守ることができます。

設例では、わかりやすい例を用いて説明しましたが、実際に配偶者居住権の価値を算定する際には、不動産の耐用年数や経過年数に加えて、配偶者の平均余命や複利現価率を用いて計算します。

配偶者居住権のデメリット

不動産の売却が難しい
配偶者居住権は、残された配偶者が引き続き無償で自宅に住むための権利(居住する権利)のため、配偶者自身が自宅を売却することはできません。
自宅を所有する権利をもつ者(例えば、子どもなど)は自宅を売却することが可能ですが、配偶者居住権が設定されていると、実質的に第三者に譲渡・売却することができません。

配偶者による配偶者居住権の放棄があれば、譲渡・売却することが可能ですが、配偶者が老人ホームなどに入居し、認知症等により意思決定ができない場合、権利の放棄をさせることは難しくなってしまいます。その場合は、配偶者が死亡するまで配偶者居住権は消滅しないことになります。

固定資産税の負担が必要
固定資産税は自宅の所有者(例えば、子どもなど)が支払うことになります。改正民法では、配偶者居住権を取得した配偶者は、自宅の建物の「通常の必要費を負担すること」とされているため、自宅の建物の固定資産税は配偶者が負担することになりますが、自宅の土地の固定資産税はその自宅を相続した相続人(つまり、所有する権利を持つ者)が負担することになります。住んでいない土地の固定資産税を支払うことになるため、所有者にとっては不満になる場合があります。

配偶者居住権を設定した方がいいケース

「争族」が起こりそうな場合
配偶者と子どもの関係が悪い場合、遺産分割を円滑に行うことができないことがあります。特に、血縁関係のある親子間だけに限らず、配偶者が被相続人の再婚相手で子どもと血縁関係がない場合、遺産分割のトラブルが起こる可能性があります。

法定相続分通りの分割の場合、相続する自宅が相続財産2分の1を超えていれば、配偶者が自宅を相続することができないこともあります。こうしたトラブルを避けるためにも、配偶者居住権の設定は必要になるでしょう。

反対に、親子間の相続が円滑に行われる場合や配偶者が高齢で老人ホーム等に入居を考えている場合(⾧期的に自宅に住む意思がない)、配偶者が自宅に加えて生活に困らないレベルの現預金も相続できる場合は不要でしょう。

最後に

配偶者居住権には、メリット・デメリットがありますが、相続税の節税になる場合があります。配偶者居住権は配偶者が死亡したときに、その権利は消滅しますが、配偶者居住権の価値には相続税がかかりません。従って、配偶者居住権を設定していないときと比較して、二次相続の相続財産を圧縮することが可能になります。ただし、配偶者居住権自体は建物に関する権利であるため、相続税の小規模宅地の特例(租税特別措置法69 条の4)の適用対象にならない点、一次相続時の節税と比較して検討する必要があります。

税理士 西村敦正氏
株式会社BAMC associates代表税理士。相続・事業承継を中心とする資産税が専門。1000件を超える相続コンサルティング実績を持つ。区画整理や不動産活用・開発に伴う案件に精通している。

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