税務

20200312vol. 32

令和2年度 税制改正大網に見る 不動産業界に関係する税制改正動向について

昨年12月12日、自民、公明の政府与党から、「令和2年度税制改正大綱」が公表されました。これは、租税制度に関する基本的事項を調査審議する税制調査会が、翌年度以降の税制について各府省庁,業界団体の要望を踏まえて議論し、毎年12月に発表するもので、政府はこちらをもとに税制改正法案を年明けの通常国会に提出します。今回は、この発表内容から、不動産業界に関連する事項をご紹介します。

基本的考え方

先ずは、不動産に絞らず通底する基本的な姿勢について、大綱では、最初に5つの事項を掲げています。

①デフレ脱却と経済再生
②中小企業等の支援、地方創成
③経済のグローバル化・デジタル化への対応
④経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し
⑤円滑・適正な納税のための環境整備

①では、従来から行われてきた企業の研究開発,人材投資等の促進に向けた整備の他、これまでの枠組みを超えたより革新的な企業への投資については、一定の場合は25%の所得控除を認める「オープンイノベーション税制」の導入が目玉になっています。又、今後の社会基盤となる「5G(第5世代移動通信システム)」の早期普及に向けて、当該投資については、15%の税額控除(又は30%の特別償却)を認めることとされています。その他、企業の効率的な経営を後押しすべく、連結納税制度の見直しが掲げられています。

②では、設備投資,事業承継等で、中小企業の経営を支援する制度を整備してきましたが、特に後段に関して「低未利用地の活用促進」,「所有者不明土地等に係る固定資産税の課題への対応」が含まれています。又、③では、経済のグローバル化・デジタル化が進展する世の中における現状の日本企業の置かれた状況を踏まえた上で、国際的な課税の見直しについて、掲げられています。

そして、④では、多様な生活様式が展開される今日のライフスタイルに合わせて、老後に向けた個人財産の蓄積を含む、個人所得税の所得控除の見直しの他、人生100年時代に向けた財産移転についても触れています。

最後の⑤では、スマートフォンの利用による電子納税等、税務についてもITの高度な進展に添った環境整備を推し進めることを謳っています。

不動産関連について

具体的な不動産関連については、以下の制度が挙がっています。

イ)低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除の創設
低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除の創設取引価額が低額の土地については、流通コストが相対的に割高になることによって流動性が低くなる場合があります。そのため、この様な場合については100万円の特別控除を認めることで土地の利活用を促進し、ひいては、地域の価値向上につなげていこうとするものです。

ロ)所有者不明土地等に係る固定資産税の課題への対応
不動産の登記簿を見ると現時点の所有者が判明するわけですが、その所有者が死亡した際、諸般の事情で登記をしない場合があります。この様な場合で相続による登記が行われるまでの間、相続人等の現時点の所有者に対して、氏名・住所等の必要な事項を申告させることができる様にすることが挙がっています。又、全国では所有者が不明な不動産が多数存在しますが、この様な場合で、持ち主の調査を徹底して行ってもどうしても明らかにならなかった場合、現在の使用者に対して事前に通知した上で、一時的に使用者を所有者とみなして固定資産税を課すことができる様にすることも挙がっています。

ハ)国外中古建物の不動産所得に係る損益通算の特例の創設
海外の不動産における減価償却計算については、国内の不動産とは異なって早期に費用化が行える場合があります。そのため、これまではこの通常よりも多額に計上される償却費に基づいて発生した損失と給与所得等他の所得と相殺して、課税対象となる金額を減らすことが出来ました。
しかし、今後、令和3年以後はこのスキームには制限をかけ、発生した損失の内で海外中古不動産の減価償却費に相当する部分の金額は、他の所得と相殺出来ないこととされています。但し、当該不動産を売却する際には相殺出来なかった金額を帳簿価額に足し戻す等、一定の補完措置も含まれています。

ニ)居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化
もともと居住用建物からは非課税売上しか生じず、購入に係った消費税は還付を受けることが出来ないわけですが、これまでは金の売買等を行うことにより課税売上を発生させ、還付を受けることが行われてきました。
しかし、令和2年10月1日以後に居住用賃貸建物を購入した場合には、仕入税額控除の適用を認めないとするものです。

ホ)住宅ローン控除の重複適用の制限
住宅ローン控除の適用から3年目にこれまで住んでいた住宅を売却した場合、令和2年4月からは、次の特例の適用を重複して受けることが出来ないとするものです。
・10年超所有した居住用財産を譲渡した場合の軽減税率適用の特例
・居住用財産の譲渡所得の3000万円特別控除
・特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例

ヘ)土地・住宅税制に関する特例制度等の延長
期限が切れる下記の制度については、引続き適用が認められることとなっています。

【登録免許税】2年間延長
・住宅用家屋の所有権保存,移転,抵当権設定登記に対する軽減措置
・特定認定長期優良住宅,認定低炭素住宅の所有権保存登記等に対する軽減措置
・特定の増改築等がされた住宅用家屋の所有権移転登記に対する軽減措置

【印紙税】2年延長
・不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税額の軽減

【固定資産税・都市計画税】2年延長
・新築,認定長期優良住宅に係る税額の減額措置
・耐震改修等を行った住宅に係る税額の減額措置

その他、令和2年4月から導入される配偶者居住権(相続で遺産分割の際、配偶者が自宅の処分を迫られた結果、住居に困ることがない様に配慮するもの)に関する諸制度についても、規定がなされています。

今回の大綱は、不動産関連について絞ると、比較的大きな改正につながる発表は少なかったのではないかと思います。ただ、税制は、私たちの生活に直結するものです。お時間ある時に、最初の「基本的考え方」だけでも、一度は目を通してみてはいかがでしょうか。

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