税務

20181001vol. 27

法人活用のメリット・デメリットについて

身の回りの方や有名人の方で「不動産を持っている」と言われている場合に、実際は個人名義ではなく、経営している法人で保有していることがよくあります。今回は、不動産投資における法人の活用について考えていきます。

メリット

法人での経営には、個人と比較して多数のメリットが存在します。先ずは、メリットについて個別に確認していきます。

税率
個人で保有している不動産から得られた所得は、給与所得等と合算され、総合課税として超過累進税率が適用されます。現在では、稼いだ所得に課せられる税率は4,000万円を超えると45%に達し、個人住民税10%を含めると実に5割を超えます。
それに対し、法人の場合は、設立する法人の種類や規模、稼いだ儲けにもよって扱いに違いが生じますが、各種地方税と合算した税率は概ね30%程度であり変動しません(注1)。一定以上の所得が生じている場合、この税率の差異があるため、法人で不動産を保有することにメリットが生まれてきます。
所得の分散
個人で不動産事業を行う場合、同一生計の者に対しては、原則として給与を支給することができません(注2)。前項の通り、所得次第で税率が変わるので、あらかじめ納税者側において、家族内での恣意的な所得の付替え操作をできないようにするためです。
それに対し、法人の場合は、配偶者や子どもに役員報酬・給与を支給しても何ら問題はありません。法人の所有者が実質的にそのオーナーであったとしても、個人とは別の法人格を有した法人からの支給であるからです。そして、支給することで、家族全体として納税後の可処分所得を増やすことができます。
給与所得控除
法人として給与を支給する場合、給与を受け取る側はその額に応じて、給与所得控除が使えます。これは、『個人事業を行っている者は、収入を得るために要した支出を必要経費として扱える』のに対し、『給与収入を得ている者が何ら必要経費相当分を認められないのでは不釣合いである』という理由から認められているものです。
実際に支出したかどうかを問われず経費として認められ、なおかつ、他の事業を行っている場合よりも多めに設定されていますので、大きなメリットと言えます。(個人で不動産事業を行っている場合には、そもそも“給与”という概念がないため、この控除は受けられません。)
生命保険料
給与を支給されている方の中には、給与総額から、加入されている生命保険料の控除を行っている方もいらっしゃるかと思います。この保険料ですが、個人の場合、年間いくら支払ったとしても総額で12万円までしか所得控除として認められません。
それに対し、法人で加入した場合は、保険の種類によって経理処理が異なりますが、経費として扱える金額に制限はありません。
退職金の支給
退職金は、老後の生活の糧になるものですので、税金面で優遇されています。
個人の場合、事業と個人は一体ですので、“退職”という概念が存在せず、退職金を支払うことができません。
それに対し、法人の場合は、役員や社員に対して支払うことが認められています。役員へ支払うとなると多額になりますが、払う法人側は経費として認められる上(注3)、受取る個人の側でも給与等の他の所得よりも有利な税率で受取ることができます。
損益の通算
個人の場合、不動産の売却は不動産所得ではなく、譲渡所得となります。原則として土地・建物に係る譲渡所得は他の所得と相殺できないため、仮に譲渡益が生じなかった(損失発生の)場合、他の不動産の売却による譲渡益が無ければ、その損失は“発生しなかったもの” として切り捨ててしまうことになります。
それに対し、法人の場合は、どの様な取引によって生じた利益又は損失に対してでも、相殺して利益計算をすることができます。
損失の繰越期間
個人の場合、損失が出ても3年までしか繰り越すことはできません。それに対し、法人の場合は、最大10年まで繰り越しすることができます。

以上の他、法人を利用する場合には、減価償却費の計上に柔軟性があること,共済制度を有利に利用できること等のメリットを享受できます。

注1:現時点の法人税率は、23.2%です。ただし、資本金1億円以下の中小規模の法人の場合、800万円以下の所得については15%と優遇されています。

注2:事業専従者として届出することで、給与を支給することもできますが、その場合、オーナーの扶養から外れる等のデメリットが生じる場合があります。

注3:税務上の目安がありますので、この目安を意識した支払をすることが必要です。

デメリット

法人の利用は、メリットばかりではありませんので、デメリットも確認していきます。

設立費用の発生
設立する法人の種類にもよりますが、登録免許税等で、おおよそ30万円前後かかります。
赤字でも住民税発生
公共サービスの利用料的な意味合いで、利益の有無にかかわらず、毎年最低7万円の住民税(均等割)が課せられます。
事務の手間の増加
法人という組織を運営している以上、役員会議事録の作成等の事務手続の負担が増加することになります。
社会保険の加入強制
個人で事業を行っている場合、社員が5人未満の場合は加入義務がありませんが、法人の場合はその様な免除規定はなく、社会保険への加入が強制されます。

上記以外にも、法人に不動産を集めるには流通税がかかる等のデメリットも存在します。個々のおかれている状況に応じて、法人を設立すべきかどうかは異なり、一律に判定することは出来ませんが、本稿を、その判断の参考にしていただきたいと思います。

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