税務

20230727vol. 45

親子間・法人間で土地を賃借するときの注意点

 今回は、皆さんが所有されている土地にお子さんがご自宅やアパートを建築する場合や、不動産管理法人を所有され、皆さんが所有されている土地に、その管理法人で建物を建築する場合の注意点をお話ししたいと思います。
「あまり子供を甘やかすのも良くないから、ちゃんと地代をもらった方がいいのではないか?」
「第三者に土地を借りるならそれなりの地代を払わなければならないはずなので、これを子供に無償で貸してしまったら、その経済的利益が子供への贈与にはならないのか?」
「不動産管理法人を設立し、私の土地にその法人で建物を建て貸しているのだけど、地代はどのように決めたらよいのか?」
などの相談を受けることが多々あります。
実は、この地代の支払いの有無や金額設定によっては、考えられないくらいの多額の贈与税が発生したり、相続の時に土地の評価が大きく上がってしまったり、一つ判断を誤ると、取り返しのつかない問題に発展することがあるため、今回はこれら土地の貸し借りについて、お話ししたいと思います。

ご自身の土地にお子さん名義の自宅やアパートを建てる時の注意点

「子供が自宅を持ちたいと言っているのだけど、土地建物を購入するには資金的にも負担になる。それならば、うちの敷地ならもう1軒くらい建物も建てられるので、この敷地に建てるのはどうだろうか? そういえば、住宅取得資金の贈与という制度があり、1,000万円までは無税で子供に住宅資金の贈与もできるから、生前贈与もできて相続税対策にもなる。足らない分はローンを組んでもらって建築を検討してもらおう。近くに住んでもらえるなら将来も安心だ。」
このように、ご自身の敷地にお子さん名義の建物を建てるケースはよく聞く話です。
このとき、お子さんから地代をもらうべきでしょうか?
(答え)地代はもらうべきではありません。地代をもらうと、借地権相当の財産を贈与したものとみなされ、高額な贈与税が課税される可能性があります。

【検証】
地代をもらうということは、法律的に「土地の賃貸借契約」を結ぶという事になります。建物を所有する目的で賃貸借契約を結ぶと、そこに借地権の問題が発生します。これは、親族間・第三者間を問わず発生する問題で、地代を払うのであれば、「相当の地代」という高額な地代を払わない限り、借地権が建物所有者に移転したものとみなされ、贈与税が課税されるという考え方です。この「相当の地代」というのは相続税評価額の6%と定められています。路線価評価で5,000万円の土地であれば5,000万円×6%=300万円。年間300万円の地代を払う必要が生じます。月25万円の地代を払うなんて現実的な話ではありません。

勉強をされている方は、「無償返還の届出」を税務署に提出すれば、借地権の認定課税はされないのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、この「無償返還の届出」の制度は個人間では利用できず、個人・法人間や法人・法人間の契約で利用できる制度なのです。
これはご自宅に限らず、自分の土地にアパートをお子さん名義で建てる場合も同様です。

【結論】
お子さん名義の建物を親御さんの土地に建てる場合には、地代はもらわず、使用貸借(賃貸借契約は結ばず、基本無料)とする。なお、固定資産税相当額の地代であれば、賃貸借とはみなされず、「使用貸借」として扱われるため、「土地を無償で貸しているのだから、固定資産税くらいは負担して」とお子さんにお話しすることは問題ありません。
一方、この使用貸借の土地は、「更地評価」となり、相続税法上の減額要素はありません。
ご自身の土地に、ご自身でアパートを建築し、賃貸し収入が得られれば、貸家建付地として借地権割合に応じおよそ20%前後の減額が図れる所、お子さん名義のアパートを建て、「使用貸借」となると、100%評価となってしまいます。
このように建物の名義次第で相続税にも大きな影響がでるため、慎重な判断が必要となります。

ご自身の土地に不動産管理法人が建物を建てる時の注意点

それでは、不動産管理法人を作って、その法人が皆さんの土地に建物を建てた場合も、同様に借地権の認定課税の問題が発生してしまうのでしょうか?

このとき、不動産管理法人から地代をもらうべきでしょうか?
(答え)一定の手続きを経たうえで、地代をもらうべきです。お子さん名義で建物を建築する場合と異なり、「無償返還の届出」を提出することにより、借地権の認定課税を回避できる上、相続税評価においても一定の土地評価減の効果が得られます。

【検証】
個人間の取引の場合には、使用貸借(無償で貸す)という取引は、社会通念から考えても不自然な行為ではありません。親が子供に無償で土地を貸す、建物を貸す、お金を貸すなど、人間は必ずしも経済的な利益追求を目的としていないため、これら取引が無償で行われても、税制上も特に課税をするようなことはありません。そのため、土地を使用貸借で無償で貸した場合にも、特に借地権の課税はせず、そのかわり貸主側の土地の評価上も借地権を減額しない更地の評価となるわけです。
お金を無利息で貸したときも同様です。「本来銀行でお金を借りたら1%の金利はかかるのだから、この1%については、貸す側で未収利息として収入に計上し、確定申告してください」とはならないわけです。
ところが、これが対法人との取引となると話が変わります。法人は利益を追求する主体として存在しているからです。法人がお金を無利息で貸し付けた場合には、上記の例のとおり、利息相当を収入に計上しなければなりません。
土地の貸し借りについても同様です。皆さんが管理法人に使用貸借で土地を貸付け、とくに届出もせず、法人が建物を建てた場合には、法人側で借地権の認定課税が行われ、例えば借地権割合60%の地域で路線価評価5,000万円の土地を貸し付けると、法人側で5,000万円×60%=3,000万円の借地権が受贈益として収入に計上され、多額の法人税が課税されることになります。何のお金も動いていないのに1,000万円近い法人税を納税しなければなりません。
このため、対法人の取引については、「無償返還の届出」という制度があり、「法人に土地を貸し付けますが、返してもらうときは建物を壊して更地で返すことを約束するので、借地権の認定課税はしないで下さい。」という申請を行うことにより、建物所有目的で土地を貸し付けても借地権の認定課税はされずに済む、そんな制度があるわけです。
法人の場合には、この無償返還届出制度は賃貸借(有償での土地の貸付)の場面でも利用できます。
先ほど、個人間においては、使用貸借にしないと、相当の地代という高額な地代を払わない限り借主側に借地権が発生し、多額の贈与税が課税されるとお話しましたが、法人の場合には、使用貸借にしなくとも、無償返還の届出を提出すことにより、借地権の認定課税は避けられるわけです。
皆さんが管理法人を利用されるのは、そもそも土地所有者の個人に収入が集約され、高額な所得税が課税されている状態を回避し、合法的に法人に所得を移転する事を目的で利用されていると思います。ここで、高額な相当の地代を法人が個人に払ってしまっては、そもそも何のために法人を作ったのか?という話になってしまいます。そこで、この無償返還の届出制度を上手に利用するわけです。
また、無償返還の届出を提出し、賃貸借(有償での貸付)の形をとれれば、個人の土地の評価においては、更地価額から20%減額できます。相続税計算においても、貸家建付地とほぼ同様の減額効果が図れるわけです。その代わり、不動産管理法人の自社株評価においては土地評価額×20%を資産として計上することになります。

【結論】
皆さんの土地に、不動産管理法人が建物を建てる場合には、無償返還届出を税務署に提出し、賃貸借として認められる最低限の地代(固定資産税の3倍程度)を法人から個人に支払う形が作れると、相続税評価においても貸家建付地とほぼ同額の減額効果が図れるうえ、建物は法人所有となり家賃は法人に帰属するため、所得税の対策にも貢献することになります。

「無償返還届出の提出なんて知りませんでした.. 地代も適当な金額で到底相当の地代なんて払っていないし、このままでは法人に借地権の認定課税がされてしまうでしょうか? 建物は法人で建築してから凡そ10年になります。」

このようなケースの相談も多く聞かれます。ご相談者の認識のとおり、本来であれば借地権の認定課税が行われますが、この課税は建物を建築した時に行われるため、既に10年を経過しているとなると、法人税の時効は成立しているため、借地権の認定課税をされることはありません。また、個人の土地評価においては、借地権は既に法人に移転しているとの認識が図れるため、個人の土地評価においても底地の評価が適用できることになります。ただし、実際の地代の金額により法人に移転している借地権の価額は異なるため、ここは個別に税理士さんに相談し、借地権の価額を計算してもらってください。

上記のとおり、個人で建物を建てるのか?法人で建てるのか?使用貸借にするのか?賃貸借にするのか?で、税制上の取扱いは大きく異なりますので、土地活用をされる場合には、細心の注意を払い、税理士さんに相談の上進めていただく事をお勧めします。

税理士 西村敦正氏
株式会社BAMC associates代表税理士。相続・事業承継を中心とする資産税が専門。1000件を超える相続コンサルティング実績を持つ。区画整理や不動産活用・開発に伴う案件に精通している。

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