税務

20220715vol. 41

不動産による相続税の節税手法と税制改正について

先般、前回のコラムで取り上げた不動産に係る注目の裁判に係る判決が出ました。出る前は、納税者よりの結果が出ることも期待されましたが、蓋を開けたところ、期待されたものにはなりませんでした。
今後、不動産を活用した相続税対策は、おさえた方がよいと考えるべきでしょうか。今回は、不動産を活用した相続税の節税手法について、税制改正による対応状況も含めて、検討してみたいと思います。

不動産による相続税の節税手法

財産をお持ちの方は、現金預金,株式等の有価証券から、金等の現物資産,そして不動産まで、様々な形で保有されています。その中で、不動産は「一物四価(※1)」とも言われるほど捉え方によって評価が異なる資産のため、相続税計算上の評価も慎重にすべきと考えられています。そのため、納税者に不利にならない様、一般的な取引価格よりも下げて評価することになっており、他の資産から不動産に変えるだけでメリットが生まれます。その他の手法も含め、不動産を使った相続税の代表的な節税手法は、下記が挙げられます。

※1 実際に取引される価格である「時価」,道路に面している標準的な宅地1平方メートル当たりの評価額である「路線価」,毎年3月下旬に国土交通省から公示される「公示地価」,毎年9月に各都道府県から公表される「基準地価」の他、固定資産税の根拠となる「固定資産税評価額」も加えて「一物五価」と言われる場合もあります。

⑴不動産の取得

土地であれば、評価のベースとなる路線価は時価の8割程度、建物の評価も建築価額よりも低い固定資産税評価額がベースとなりますので、不動産を取得するだけで、評価を圧縮でき、結果、節税につながります。

⑵不動産評価額の圧縮

前項に加えて、土地をどの様に利用するか,区切るか、又、建物であればどの様な配置で建築するか,どの様な資材を使って建てるか等で、更なる評価額の圧縮につながったり、建築後のランニングコストの発生態様が変わってきます。

⑶不動産を建築して貸出

不動産は、賃貸に出すことで、更に評価額は下がります。不動産の借手保護を意図した法律の存在等により、貸出すことにより所有者のコントロールが効きにくくなるためです。

⑷小規模宅地の特例の適用

もともと保有している不動産についても、相続の発生により住居を失ったり、事業の継続が難しくなることがない様、この特例の適用により、一定の場合には土地の評価額を最大8割下げることができます。

各手法の活用と法改正の状況

1.で、代表的な不動産の節税手法を挙げましたが、これらの変遷を確認する前に、先ずは、近年の相続税法の大きな改正として、こちらが挙げられます。

基礎控除は、相続税の課税対象となる財産の価値を無条件で引き下げるものですが、この改正の施行により、相続税が課されるケースが増え、節税に対する意識も高まりました。以下、1.で挙げた各手法と税制改正の状況について確認してみます。

⑴ 不動産の取得

近年、タワーマンションは、立地は勿論、高所得者のステータスとして、又、インバウンド投資の受け皿等として、乱立しました。上層階ほど眺望が良くなるため時価が高くなるわけですが、相続税の評価に階数による影響はありません。そのため、高層階ほど評価額と時価の差が大きくなるメリットが出ることもあり、相続税対策としてもてはやされる中、税制改正がなされました。

今のところ、相続税評価額は変わりませんが、ライフイベントに合わせた不自然な売買は課税庁(※2)も注視しているため、ストーリーなき売買は注意が必要です。

※2 不動産は、取得,保有,譲渡の各場面に応じて、様々な税金が課されます。取得時の不動産取得税は都道府県より、保有時の固定資産税は市区町村より課されますが、相続税,所得税等を課すのは国税庁になります。

⑵ 不動産評価額の圧縮相続税の財産評価上、土地の評価は単に筆毎に行うのではなく、建物の配置も考慮し、利用実態に即して区切って評価を行います。又、建物であれば、使う資材によって(計算上の)耐用年数は変わってきますし、造作の設置状況も影響します。そのため、オーナーを中心として、各専門家が協力し合うことで、より効果的な節税が図れます。
組織的に取り組む様になると、必然的に法人を活用するケースが出てきますが、法人で取組んでも営む事業が不動産事業のみの場合、合目的的な経費は限られます。そこで、以前から少額資産の取得を通じた節税スキームを利用する場合がありましたが、その一つであるドローンを用いたスキーム(※3)は、この4月以降できなくなりました。

※3 一式で10万円未満の資産を取得した場合、固定資産として計上した上で減価償却を通じて数年間に亘って経費化する必要はなく、一度に全額経費にすることが可能です。その上で、取得した資産をレンタルに出すことで資産の調達支出を回収でき、結果、一連の会計処理を通じて課税の繰延を図ることが可能でした。

生命保険に係る“バレンタインショック”(※4)以降、節税ありきの商品に対する法律の抜け穴は、以前にないスピードで手当される傾向にあります。

※4 近年、保険本来の機能である補償を第一義にするのではなく、支払った保険料を経費として扱える比率が高いこと(節税になること)を売り物にして保険の販売が行われてきたことを国税庁が問題視し、保険の取扱いを変更する旨の発表が行われました。その日付が2019年の2月14日だったため、“バレンタインショック”と言われています。

⑶ 不動産建築して貸出

不動産を貸出した場合、かつての法制度を踏まえた借手保護の趣旨に基づき評価額を下げるものですから、今後も、この点に大きな改正が起きることはないと考えられます。
むしろ、以前にご紹介もしている新しい制度をおさえておくことが必須と思われます。

配偶者居住権の活用は、節税になるケース、ならないケースがありますので、活用に当たっては、十分な検討が必要です。課税側も、一方的に規制を強化するだけではなく、古い制度を使いやすい様に改めたり、現在の社会情勢に即した制度を新設する動きもとっています。

⑷ 小規模宅地の特例の適用

都内に自宅を保有していれば、それだけで相続税が課される時代になってきましたので、税額へのインパクトの大きい本特例は、改めて注目が集まっています。
但し、死後に、あたかも適用が可能であったかの様な外形を整備する様な場合もありましたので、付け焼き刃の対応が意味をなさない様、改正がなされました。

この特例による評価圧縮効果は絶大ですが、要件が複雑ですので、専門家に相談しながら十分に検討して、適用するための準備をすることが重要です。

今後の展望

以上、不動産を活用した相続税の圧縮手法とその税制改正適用状況について確認してきました。何れの方法をとってみても、近年は特に制度の移り変わりが激しいため、最新の情報収集が欠かせません。又、一面だけ捉えて損得勘定をすると、トータルでは損する場合もありますので、注意が必要です。

これらの手法の中で特に気を付けたいものが、⑴の取得により、時価と評価額の差を活用するケースです。法律が異なれば立法趣旨も異なりますし、評価の場面が異なれば選択すべき評価方法が異なりますので、時価と評価額の計算結果に差が出ること自体は何ら問題ありません。

但し、不動産に限らず、相続税法(財産評価基本通達)で規定されている評価方法は、特定の課税負担者が不利にならない様に規定されている手法の一つでしかありません。あくまでも時価の代替として計算する評価額ですので、極端に偏った計算結果が出た場合は、その計算結果を採用すべきかの判断は、慎重に下すべきです。本稿の発端となった裁判でも、租税回避を目的としていたことが一番の問題となりました。

節税を第一義に謳ったスキームについては、懐疑心を忘れることなく、複数の専門家に相談しながら、取り組んでいただくことが重要です。この機会に、これまで行ってきた対策は適切だったのか、現在でも有効なのか、確認してみていただきたいと思います。

 

 

税理士 西村敦正氏
株式会社BAMC associates代表税理士。相続・事業承継を中心とする資産税が専門。1000件を超える相続コンサルティング実績を持つ。区画整理や不動産活用・開発に伴う案件に精通している。

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