相続税評価における基本的な考え方
相続の対象は、不動産だけではありません。現預金,株式等のプラスの財産ばかりでなく、借入金,葬儀費用等のマイナスの財産(負債)まで多岐にわたります。具体的な評価方法については、『財産評価基本通達』(以下『財基通』)に委ねられています。
『財基通』の冒頭、総則1項では財産評価の原則が示されています。評価は、例えば土地ならば通常土地を識別する単位である“筆”毎ではなく、利用単位の区画毎に評価すること。又、価値を付加するのは、過去の支出額,現在の取引価格等が考えられるわけですが、亡くなった時点の時価に依るとしています。
更に、具体的な評価に当たっては、その計算に影響を及ぼす可能性のある事情については、加味することを求めています。
*国税庁HPより
具体的な財産評価の例
⑴金融資産
・現預金
亡くなった方が亡くなった時点で保有していた残高そのものが課税対象になります。
・株式
上場株式とそれ以外で分かれ、上場株式については、亡くなった日の最後についた取引価格(最終価格),亡くなった日が属する月の最終価格の平均,その前の月の平均,前々月の平均の4つの内で、一番低い価格を採用します。
一方、上場株式以外(未上場株式)は、殆ど流通せず取引価格を探すことができないため、『財基通』で発行会社の規模,種類等に応じた評価方法が細かく規定されています。
⑵固定資産
・土地
市街地であれば、道路毎に設定された1㎡当りの価格である路線価をもとにする評価する路線価方式、郊外であれば、固定資産税評価額をもとにする倍率方式で評価することになります。
・建物
固定資産税評価をもとにして、賃貸に出しているか否か,出している場合は、全戸数のどの程度賃貸しているか等の状況を加味して評価していきます。
相続税法の評価方法について
例えば2.⑴の金融資産であれば、現預金は、評価を変えようもないですが、株式については、上場株式は不測の価格変動を評価に反映させない様に選択の余地があります。
また未上場株式については、評価方法の範囲内で、評価額をコントロールすることが可能です。
同様に、固定資産についても、もともと路線価自体が、冒頭で挙げた公示地価の8割程度、固定資産税評価額は7割程度とされていますが、取得時に支払った売買価格よりも大幅に低い場合、保有している不動産の資産価値はそのままで、結果として、相続税計算上の評価のみ下げることができ、ここに、相続税節税の余地が生じます。
『財産評価基本通達』総則6項の存在
但し、その乖離が著しい場合には補正する場合があることを謳っているのが、『財基通』総則の最後に規定されている6項になります。
*国税庁HPより
この規程は、いわゆるバスケット条項で“伝家の宝刀”とも言われていますが、現在、抜かずの刀が実際に抜かれ、国と納税者の間で裁判にもつれ込んでいる係争案件があります。
1.で確認した通り、もともと、各財産を個別に評価基準を示す前提として、”時価”により、評価することを『財基通』の冒頭で述べているわけで、国側はこの案件に限っては、”時価”としては路線価による評価は妥当ではなく、不動産鑑定評価による価格の方が妥当としています。一方で、『財基通』の各論では、不動産の評価方法については2.⑵の通り規定されているわけで、どの様な場合にはこの規定が使えなくなるのかが明確でありません。
この争いの中で、総則6項が適用される条件が示されるかもしれず、今、その推移が注目されているところです。その結果次第では、今まで節税対策として取得した、或いは、今後取得を検討している物件について、その見直しを求められるかもしれません。
現在保有されている不動産は、決して節税を目的として取得してわけではなくとも、路線価とは大幅に乖離している場合もあります。相続税対策については取り巻く状況次第で常に見直す必要がありますので、この係争案件の結論が出た後、一度、点検してみてはいかがでしょうか。
税理士 西村敦正氏
株式会社BAMC associates代表税理士。相続・事業承継を中心とする資産税が専門。1000件を超える相続コンサルティング実績を持つ。区画整理や不動産活用・開発に伴う案件に精通している。