税務

20220113vol. 39

令和4年度税制改正大綱に見る不動産業界に関係する税制改正動向について

昨年12月10日、自民、公明の政府与党から、「令和4年度税制改正大綱」が公表されました。こちらは、租税制度に関する基本的事項を調査審議する税制調査会が、翌年度以降の税制について各府省庁,業界団体の要望を踏まえて議論し、毎年12月に発表するものです。政府はこちらをもとに税制改正法案を通常国会に提出しますが、今回は、この中から、不動産業界に関連する事項を中心にご紹介します。

基本的考え方

先ずは、繰り返していた「成長と分配の好循環の実現」において、下記の9点にわたって展開しています。不動産と直接的に関係のある⑤、⑥については、後述の通りです。

①積極的な賃上げ等を促すための措置

②オープンイノベーション促進税制の拡充

③未来への投資等に向けた経済界への期待

④地方活性化、災害への対応

⑤住宅ローン控除等の見直し

⑥固定資産税等

⑦中小・小規模事業者の支援

⑧経済と環境の好循環の実現

⑨その他考慮すべき課題

そして「経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し」では下記の3つに分けて、①では各種控除のあり方について、そして②で今回は織り込まれなかった相続税・贈与税を一体としてとらえて資産移転時期に左右されない公正な課税制度に変更することについて検討していくことを明言しています。

①個人所得課税のあり方

②相続税・贈与税のあり方

③外形標準課税のあり方

その他、経済のグローバル化した現在に適した「国際課税制度の見直し」、又、「円滑・適正な納税のための環境整備」の中で、不動産とも関係する(電子)インボイス制度の対応準備から、税務手続き利便性を一層高めるためのデジタル化,キャッシュレス納付制度への対応等について述べています。

 

不動産関連について

主な個別の不動産関連については、以下の通り挙がっています。

 

イ)住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除について

住宅ローン控除については、発表前から改廃について、あちこちで話題に挙がっていました。低金利下に利ザヤで稼ぐことに対する批判とコロナ下で制度を廃止することについて様々な議論が起こりましたが、一般の住宅については、最終的に下記の様にまとまりました。

 

住宅ローン控除の適用にあたっては様々な要件がありますが、令和7年末までに居住した場合まで認められることになった一方、控除率は0.7%に引き下げられました。又、借入限度額も2,000万円までとなった他、所得税から控除しきれない場合に住民税から控除できる金額も9.75万円までに引き下げられました。

 

ロ)認定住宅の新築等をした場合の所得税額の特別控除について

前述の(1)⑧にて、「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指すとともに、2030年度に2013年度比で温室効果ガスを46%削減することを目指すとしていますが、本措置について居住の用に供した場合の対象住宅にZEH水準省エネ住宅(※)が追加され、居住年が2年間延長されました。

 

(※)ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」を指します。

 

ハ)特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例について

住宅を売却して利益が出た場合について、居住用の物件については住み替えを支えるため、10年以上の居住,譲渡対価が1億円以下等の一定の場合については、課税を将来に繰り延べることができます。

この特例についても前項と同様の趣旨で一定の省エネ基準を満たすことが要件に加わった上で、適用期限が令和5年12月31日まで2年延長されることになりました。

 

ニ)直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置等

この措置は、潤沢な資産を保有する高齢者から住宅が必要となる若年層に向けて、住宅取得資金の円滑な移転を図るために設けられた仕組みです。

こちらは、①耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋は1,000万円まで、②それ以外の住宅用家屋は500万円までに非課税枠が引き下げられた上で、適用期限が令和5年12月31日まで2年延長されることになりました。又、中古家屋については、築年数要件を廃止すると共に新耐震基準に適合していることが求められるようになりました。

 

ホ)土地に係る固定資産税等の負担調整措置

負担調整措置とは、3年に1回評価額の見直しが行われる固定資産税評価の結果、評価額が大幅に増加した場合については評価額を徐々に増加させることで負担を軽減していこうとする仕組みのことです。

今回は、負担水準(個々の土地の前年度課税標準額が今年度の評価額に対してどの程度まで達しているか示すもの)が60%未満の商業地等に限って、令和4年度の課税標準額を令和3年度の課税標準額に令和4年度の評価額の2.5%(現行は5%)を加算した額にしようとするものです。

 

ヘ)土地・住宅税制に関する特例制度等の延長

期限が切れる下記の制度については、移転,抵当権設定登記については住宅用家屋が新耐震基準に適合していることを条件に築年数要件が廃止された上で、引続き令和6年3月31日まで適用が認められることとなっています。

【登録免許税】

・住宅用家屋の所有権保存,移転,抵当権設定登記に対する軽減措置

・特定認定長期優良住宅,認定低炭素住宅の所有権保存登記等に対する軽減措置

・特定の増改築等がされた住宅用家屋の所有権移転登記に対する軽減措置

 

【印紙税】

・不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税額の軽減

 

又、相続に係る所有権移転登記等に対する免税措置は、適用対象となる土地の範囲に市街化区域内に所在する土地を加え、上限を現行の10万円から100万円に引き上げた上で、3年間延長されます。

 

 

ト)財産債務調書の提出義務者の見直し

これまで『財産債務調書』は、所得が2,000万円以上あり(所得基準)、なおかつ保有している財産の価額の合計額が3億円以上、又は、有価証券等の合計額が1億円以上(財産基準)の方について提出義務がありました。

しかし、多額の財産を保有していても(財産基準は満たしていても)直接の所得が少ない方(所得基準を満たさない方)については提出義務がなかったため、適正な課税の確保の観点から、令和5年分以後については所得に関係なく、財産の価額の合計額が10億円以上の方は提出義務が課されることになりました。

 

以上、今回の大綱は、まだコロナ禍でもあり、大きな改正は少なかったと思いますが、その中でも、環境問題への配慮や格差の是正等を通じて、将来への移り変わりが垣間見えるものだったと思います。来たる将来に備えて、今の内にすべきことはないか、再確認してみてはいかがでしょうか。

 

税理士 西村敦正氏
株式会社BAMC associates代表税理士。相続・事業承継を中心とする資産税が専門。1000件を超える相続コンサルティング実績を持つ。区画整理や不動産活用・開発に伴う案件に精通している。

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