税務

20211015vol. 38

贈与税の概要と暦年贈与の今後

 税法の適用においては、一般常識とは異なる考え方が求められる場面があります。思いもよらぬケースで課税される可能性がある贈与税は、その最たるものかもしれません。今回は、意外と知らない贈与税の概要と、暦年贈与の動向について、ご案内します。

贈与税とは

贈与税は、個人から無償で財産を譲り受けた場合に、課税される税金です。ですから、あくまでも税金が課されるのは、受け取った個人だけです(下記aのケース)。
又、法人から財産を譲り受けた場合は、贈与税が課されるのではなく、所得税が課されます。お勤め先から思わぬ利得を得たなら(現物)給与となり、それ以外なら一時所得として所得税が課されることになります(下記bのケース)。

尚、税金の計算の際、受け取った資産の評価は、相続税法で規定されている評価方法で行います。贈与税は、相続税の補完的位置づけにあるためで、現金ならば現金そのものですが、土地ならば路線価方式(あるいは倍率方式)といった具合です。
ちなみに、個人が法人に財産を譲り渡す場合は、土地ならば路線価ではなく時価で譲り渡したとみなされますので(上記cのケース)、思わぬ税金の負担が課される可能性があり、注意が必要です。

贈与税の課税方法

贈与税の課税方法として、①暦年贈与,②相続時精算課税の2種類があります。いわゆる“110万円”が関係するのは①の方です。両社の主な相違点をまとめると、下記の通りになります。

一番の注意点は、贈与する人ごとに①暦年課税か②相続時精算課税制度の選択ができますが、どちら一方しか選択できず、一旦、①暦年課税から②相続時精算課税制度に切り替えると、元に戻すことができないことです。ですから、相続時精算課税制度の適用を選択する場合は、十分にシミュレーションしてから実行に移してください。

一般贈与財産と特例贈与財産

前項⑷であげた暦年課税の計算で用いられる累進税率ですが、2種類あります。通常は、「一般贈与財産」として、下記の税率で税額の計算が行われます。

但し、父母や祖父母などの直系尊属から贈与受けた場合で、受けた人がその年の1月1日現在20歳以上の場合、「特例贈与財産」として下記の優遇税率で計算ができます。

暦年課税の今後

前述の「特例贈与財産」として優遇税率で税額計算ができるような改正が行われた経緯は、財産の円滑な移転を促進するためでした。しかし、その一方で、単に資産の移転のタイミングが異なることをもって税額が増減することについては、批判も出てきました。諸外国では、贈与税はおろか、相続税が課されない国もあります。昨年の税制改正大綱で相続税と贈与税の一体化について触れられていましたが、来年の改正では、本件が実行に移されるとの見方が強まってきています。
高額な不動産を一度に贈与する場合、暦年課税は向かないかもしれません。しかし、持分を徐々に変更したり、不動産小口化商品等、年間110万円の基礎控除を使わない手はありません。まだ、どの程度,どの様な方法で行われる等の具体的な改正内容は明らかではありませんが、暦年課税の利用を考えられている方については、今が実行の最後の機会かもしれませんので、再検討してみてはいかがでしょうか。

その他の贈与関係の注意点

贈与した土地については、相続時に評価を最大80%下げることができる「小規模宅地等の特例」は使えません。又、土地は、価格の増減がありますので、相続時精算課税制度の適用を選択する場合についても、適用時の評価額で相続税の計算が行われるため、価格を見極めて行う必要があります。
又、住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用して取得した場合、住宅の種類,契約の締結日,消費税率によって定められた限度額まで、贈与税が非課税になりますが、この制度を利用して取得した土地についても「小規模宅地等の特例」の適用ができませんので、ご注意ください。

税理士 西村敦正氏
株式会社BAMC associates代表税理士。相続・事業承継を中心とする資産税が専門。1000件を超える相続コンサルティング実績を持つ。区画整理や不動産活用・開発に伴う案件に精通している。

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