2017.07.14
税務

相続対策のための資産管理法人④ ~名義株~

不動産投資を始める際に、「新設の法人と既存の法人のどちらが良いのか?」といった相談を受ける事があります。既存の法人を活用する場合に、社歴の長い法人で見かけるケースとして名義株の問題があります。[br] 名義株とは、株主名簿に登載された株主と、真正な株主が異なる状態の株式をいい、従来の法規制や対策手法の結果から生じたともいえますが、名義株を放置し続ける事は様々なリスク要因となります。

公認会計士・税理士 益本正藏氏 税理士法人総和 代表社員。 1990年、慶應義塾大学商学部を卒業。1991年、大手監査法人に入所。1997年、公認会計士・税理士事務所に入所。2000年、益本公認会計士・税理士事務所開設。2013年、税理士法人総和、益本公認会計士事務所開設。数多の知識と経験を活かし、不動産にかかわる税務相談・セミナーを行っている。その他出版多数。

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1、名義株が存在する理由

平成2年の商法改正(平成3年4月1日施行)により、株式会社設立時の発起人の人数を、7人以上から1人以上とする一人会社設立が許容されたため、改正商法施行以後に設立された会社は、基本的に名義株の問題は生じないものと思われますが、商法改正前は発起人1人につき最低1株を引き受ける事とされ、株式会社の設立時の株主は最低7人必要だったため、実際の出資払込が創業者1人であったとしても、株主の頭数を揃えるために親族や知人・従業員から名義を借りていた結果、現在に至るまで真正な株主に名義変更がされていないといったケースが実務上は散見されます。その他では、下記のようなケースが考えられる事でしょう。[br] 〇設立時の株主の退職、相続の発生、引越などの理由により株主の所在が不明となってしまった。[br] 〇その他の株主として一まとめに括られている株主が誰なのか不明でこれまで検証した事がない。[br] 〇法務や税務のリスクを考えずに社長の一存で安易に株を移動させたがその情報共有がされていない。[br] 〇平成バブル期の税務対策のトレンドだった「含み益に対する課税回避」として親族などに株を贈与していて、当事者の相続発生による代替わりとその相続人が株を一般承継した事を認識していない。 等々。[br] 中小企業では、株主総会の開催や議事録の作成、株主名簿のメンテナンスといった、本来は株式会社の根本とも言える管理が行われていない状況が多々あります。中小企業全般にいえることですが、人手不足や人材不足と、担当者の異動や退職などにより、管理資料のメンテナンスが行われないまま放置されていたという人的な問題が生じています。

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2、名義株の問題点

本来、株主権を行使できるのは株主名簿に登載された者ですから、名義人あるいは名義人から相続による一般承継によって株主権を承継した者が、ある日突然潜水艦のように現れて、株主権を行使して会社経営上に支障をきたす恐れがありますし、株主権の帰属は誰なのかという紛争や、名義人に相続が発生した場合の相続税課税の問題も懸念されます。[br] 名義株の帰属について、昭和42年11月の最高裁判決では、実際に払込や対価の提供を行った者が株主であると判示し、旧商法でも名義如何を問わず実質上の引受人が株式引受人としての義務を負担するとされ、実質上の株主の認定については、出資を履行した事の証明資料、名義借用の目的や合理性、双方の関係と名義株の合意書、贈与や相続による名義変更の場合には贈与契約書や遺産分割協議書、配当金の受領状況や増資新株等の帰属、株主総会における議決権行使の状況、などの書類から事案毎に判断すべきとしています。[br] 税務上は、株主名簿の登載者が単なる名義人の場合には、実態判断により真正な所有者を株主とし、真正な所有者に相続が生じた場合は、相続人が名義株の存在を把握していないため申告漏れのリスクが高く、一方、名義人に相続が生じた場合には、相続人から高額な価格での買い取りを要求される事も予想されます。[br] 最近の事業承継の局面でも分散した株式の集約が主要な関心事の1つで、名義株の帰属という円滑な事業承継の阻害要因は、関係当事者の生存中に証拠資料を揃えるなどの対処をしなければ、時間の経過とともに関係者の頭数が増えてしまって意見調整が事実上不可能になり、名義株の解消は困難となります。

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3、名義株の解消方法

会社の創業者や名義人が存命ならば、当事者の協力と合意のもとに、名義株である旨の承諾書などに自署と実印の捺印を求めた上で印鑑証明書を徴求し、名義変更料を負担してでも真正な株主名義に変更するべきで、株主名簿の書き換え請求、取締役会の承認を経て、株主名簿と法人税申告書の別表二を訂正します。[br] 別表二は「同族会社の判定に関する明細書」といい、株主の氏名・住所・所有株式数の記載があります。[br] 名義株の解消によって、税務当局に提出済みの法人税の申告書の記載内容に異同が生じた場合の問い合わせに備えて、名義株であった事実とその交渉経緯の説明資料を用意しておきます。[br] 名義株主に対し配当を行っていた場合は、税務当局は配当金の受領により株主権を享受していると推定しますから、単に名義変更手続きだけでなく、買い取り対価の妥当性と贈与などの課税関係を検討の上で、買い取り交渉をする必要があります。[br] 名義人が既に死亡している場合には、その相続人に対して上記と同様の手続きを行います。[br] また、名義株主が名義株である事を認識の上で、合意書を得られる場合は贈与税の課税はありません。[br] 名義株主から名義変更の承諾を拒否された場合で、オーナーや発行会社が名義株を買い取る際には、価格の折り合いがつかずに高値買となり、買い取り金額によっては税務上の高額譲受や低額譲渡といった課税の問題のほか、そもそも買い取り交渉自体が不成立といった場合では、時に強制的な方法を用いても、名義株対策をしておく必要があります。[br] 名義株式数を減少させる定款変更を行ったうえで、議決権を制限するために無議決権株式に変更する、全部取得条項付株式に変更し、一定の現金交付により追い出しを行う、などの方法が考えられるでしょう。[br][br] インフレ経済下では財産の含み益増大と財産自体の増加を抑制するために、相続対策の手法も、生前贈与等を活用した財産の分散に重点が置かれていましたが、デフレ経済下の昨今では、判断ミスのリカバリーが困難である事から財産の集約に変化してきており、長寿リスクに備えた資産家自身の老後の財産確保も重要なテーマですから、リスクのある節税策の回避と確実な次世代への承継を検討すべきと考えます。

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