2017.07.07
不動産市況

不動産市況の変化が顕在化してきた

安倍政権の誕生後、日本経済の成長戦略の方針が発表され、その後は、日本銀行との共同歩調で、大幅な金融緩和が実施された。[br] この恩恵を最も受けたのは、住宅・不動産市場であり、業界はこの数年間、好業績が続いてきた。今年3月期の決算では、最高益を更新する不動産業者も珍しくなかった。[br] この数年間、好調だった要因は、金融緩和と超低金利という金融環境に恵まれただけではなく、税制面での支援があったことも挙げられる。金融と税制というカンフル剤が連続して投与されたことで、長期に亘る活況が作られたと言える。しかし、この政府主導型の人為的な官製バブルにも変化の兆しが出てきた(図表①)。

不動産市況アナリスト 幸田昌則氏 ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。

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上記コメントの図表1

    

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2013年以降の市場動向について

2013年以降の市場動向について整理してみると、[br] 1、2013年秋、消費増税の「駆け込み」需要が発生し、市場全体が活況に。[br] 2、日銀の異次元の金融緩和政策の実施によって需要を下支え。[br] 3、2015年1月から、相続税の強化が実施された。[br] その時期の前後から、賃貸アパートの建築受注が空前の伸びを示し、更に、東京都心部の超高層マンションの需要も拡大した。[br] 4、2016年2月、マイナス金利政策が実施され、減速傾向が見られる中で、市況を押し上げていった。[br] 5、不動産価格の高騰が続き、「顧客離れ」の現象が鮮明となった。[br] 新築分譲マンション、都心の中古マンション、収益物件等で、高過ぎる不動産の需要が落ち込み、在庫も増加した(図表②)。[br] 6、一方で、格差社会を反映した動きが市場でも顕著となった。[br] 個人の富裕層や企業が、不動産への関心を高めた。富裕層のセカンドハウスの購入も増加、首都圏では軽井沢の市場も賑わう。企業も収益物件の取得や、所有地の活用による収益の確保に動いている。[br] 7、今年度に入り、金融機関の融資姿勢が変化し始めた。住宅ローンの審査は厳しくなり、サラリーマン投資家への融資ストップや融資額減額などの事例が増えている。[br] 相続対策としての賃貸アパートの建築受注件数も減少へ。また、従来までの「誰にでも、いくらでも融資する」といった融資姿勢から、「対象顧客、対象不動産などの個別条件」による選別融資へと、変化している。[br][br] ここまでの市況の歩みを見ると、長期に亘る不動産市場に転機が来ていることを認識せざるを得ないと同時に、不動産の価値がマイ ナス金利時代にあって、高く評価されてきたことを改めて確認することになった。

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市場に転機が訪れている例

そこで、市場に転機が訪れている例を挙げてみたい。[br] 1、住宅展示場や、新築マンションのモデルルームなどへの来場者数が減少傾向に。[br] 2、新築マンションの販売期間が長期化している。[br] また、不動産業者が高値で仕入れた買い取り再販物件では、販売が厳しくなっている。[br] 3、低所得者層の住宅購入希望者では、住宅ローンの審査で不可が見られるようになった。[br] 4、賃貸アパートの着工数は衰えてはいないが、建築受注数の減少が続いている。空室への警戒感が生まれている。[br] 5、価格の上昇が止まり、地域によっては下落も見られる。売り出し価格を下げる動きも出ている。[br] 6、オフィス賃料の上昇が止まってきた。今以上に「高い賃料」を支払うことに、企業が慎重になっている。[br] 7、ファンド等の機関投資家の、市場での「存在感」が弱まっている。外国人投資家についても、以前の勢いはなくなっていて、購入から売却へと姿勢を転じる例も少なくない。[br] 8、価格が高騰した用地の取得を手控える動きが見られる。[br] 事業用地の取得競争が激化して地価が高騰、事業採算の見通しが厳しくなる事業が出ている。[br] 現在では、ホテルやシェアハウス事業者が高値で取得するケースも多いが、警戒感は強まっている。[br] 9、企業業績は大きく伸びているものの、国民の可処分所得は増えるまでには至っていない。[br] そのため、住宅等の購買力は向上していない。[br]

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資産価値の格差が一段と進行

これまで水面下にあった動きが市場で顕在化してきた。今後は、変化に伴うリスクを考えた対応が必要となってくる。マイナス金利の時代にあって、不動産の持つ収益力の高さ・魅力が企業でも評価されるようになっているなど、不動産との適切な付き合いは、経営戦略としても重みが増している。鉄道会社を例にとれば、最近では本業を超える収益源になっている。それだけに、リスク管理は大切である。[br] 今後、日本社会では、人口減少、高齢化社会の進行、格差社会の到来など不可避の状況が想定される。忘れてならないのは、立地などの「不動産の質」がより厳しく問われることになることは必至だということで、資産価値の格差が一段と進行していくことになる(図表③④)。今こそ、資産価値の下がらない、下がりにくい不動産への組み替えなど、資産防衛策が求められている。

    
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