2016.05.26
不動産市況

価格が高騰し、不動産市況の「潮目」が変わった

昨年末から不動産市況に変化が見られる。アベノミクス政策・日銀の異次元の金融緩和により住宅・不動産全体の需要が喚起され、好況が続いていたが、地価や住宅価格、収益物件価格などが高騰し、顧客の取得能力を超えるようになった。即ち、不動産価格が上限に近付き、市場に在庫が滞留し始めている。加えて、世界同時株安や株価の乱高下で経済の先行き不安が生まれ、不動産市況の潮目が変わってきた。今回はその変化について解説をしてみたい。

不動産市況アナリスト 幸田昌則氏 ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。

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価格の高騰が急ピッチで進行した

新築マンションの価格は、リーマン・ショック以降も上昇が続いた。中古のマンションや戸建ての成約価格が低下したのとは対照的で、その後、両者の格差は拡大していった。図表❶で示されているように、新築分譲マンションの価格はデフレ経済が続く中で上昇している。特に、安倍政権の誕生後、大幅な金融緩和と超低金利政策によって、価格が一気に押し上げられた。[br]  この背景には、顧客が利便性を求めて都市の中心部や駅近を希望するようになってきたことが挙げられる。供給側のデベロッパーも、そのニーズに応えるために地価の高い中心部の事業用地を高値で仕入れることになった。さらに、追い打ちをかけるように建築コストが急騰したために、販売価格が上昇した。東京23区や京都市内では、現在、年収の10倍程度の水準になっている。また、大都市圏の新築建売住宅も、地価の上昇で販売価格が高くなり、売れ行きにブレーキが掛かり、値引き処分も珍しくなくなっている。[br]  最近、マンションデベロッパーや建売業者の中には、高値で仕入れた事業用地を事業化せずに、更地のまま転売してしまう例も散見されるようになった。建築コストが高止まりしていることで採算が見込めないとの判断が多い。いくら利便性を重視するとはいえ、実質所得が伸びていない状況下でブレーキがかかってきた。市況は明らかに曲り角に来ている。

    

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業界在庫が高水準になってきた

不動産市場では新築物件だけでなく、中古物件の在庫も増えているが、業者自体が抱える在庫も増加傾向で、リスクが高まっている。図表❷は、中古流通市場全体の売り物件数に占める業者の売主・代理物件、即ち、業界在庫の比率の推移を示したものだ。[br]  戸建て住宅は高水準だが、最近では中心部の中古マンションの在庫比率が上昇している。この中には、買い取り再販業者の物件が目立ってきている。仕入れ価格が高くなり、再販価格に転嫁したことで売れ残っているのであろう。金融機関もこの動きに注目し、一部では融資に慎重になっている。

    

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新築住宅の売れ残りの現場数が増加

この1年間の新築分譲マンションの完成在庫を抱える現場数を比較すると(2014・2015年の12月時点)、東京23区では202から263に、大阪市内は26から42に、京都市内は25から47に、名古屋市内は28から42に、札幌市が6から21に、福岡市は12から17に、などいずれの都市でも完売していない現場数が増加している。また、新築の建売住宅での完成在庫が目立ち、値引き処分する例も珍しくない。1年前までは売り出せば完売だったが、パターンが変化している。[br]  これらの状況から、すでにアベノミクス効果による需要の喚起には限界がきていることが窺われる。好調を伝えられてきた東京23区内でも、高額物件の売れ行きが鈍ってきている。ここまでの一本調子の価格上昇にも、警戒心が強まっている。先般の日本銀行のマイナス金利発表が示すように、不動産市況にも後退局面が実感されるようになった。

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投資への意欲は衰えず、収益物件も増加へ

この数年間、超低金利、相続税の強化という政策が追い風となり、収益物件の需要は異常な強まりを見せてきた結果、立地に優れた優良物件は品不足となり、取引価格は急騰して、利回りが相対的に低下してきた。現在の超低金利下では、適切な資金運用先は限られている。その中で、投資対象としての不動産の優位性は抜きん出ている存在であることは確かである。さらに、「円安」になることで、インフレの到来を想起する投資家が「不動産」に関心を持つのは当然のことと言える。[br]  しかし、都心オフィスビルの利回りでいえば3%を切る例が出るなど、いくら超低金利時代とはいえ行き過ぎ感がある。[br]  さて、これまで収益物件の品不足が続いてきたが、一部では収益物件の在庫が増加に転じている。一例だが、図表❸を見ると、一棟の賃貸マンションやアパートの売り物件数が、1年ほど前から増加傾向に転じている。明らかに以前とは違い、「潮目」が変化している。[br]  昨秋、「国内の企業物価指数・消費者物価指数はアベノミクス政策で上昇しているが、家賃は上昇していない」ことに日銀が苛立っているとの報道があった。賃料上昇なき販売価格の上昇には、限界があるという認識が必要だ。

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