2015.10.01
不動産市況

「格差社会」の進行を反映した不動産市場

近年、日本においても各種の格差問題が指摘されている。とりわけ、所得や資産の格差は、アベノミクス政策によって一段と拡大している。さらに、人口減少、大都市への人口集中などで地域による経済格差が著しくなり、同時に世代間による資産格差が固定化し、社会問題になっている。いずれにせよ、これらの格差が不動産市場にも影響を与え始めていて、従来はなかった現象を生んでいる。今回は格差問題と不動産市場の動きについて解説をしてみたい。

不動産市況アナリスト 幸田昌則氏 ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。

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所得・資産の格差で市況に差異

先般、経済協力開発機構(OECD)が、2013年の加盟国34カ国の所得格差に関する報告書を発表した。これによると、全人口の上位10%の富裕層と、下位10%の貧困層の所得を比べると、加盟国平均では80年代の7倍から、2013年には9.6倍に格差が拡大し、多くの国々で、格差は過去30年間で最大になっていることがわかった。国別で見ると、格差が最も低い国はデンマークで約5倍、逆に格差が最大なのはメキシコで、約30倍だった。ちなみに、日本は2011年の資料だが、約10.7倍となっている。アベノミクス効果が現れ始めるようになってからは、一段と格差が拡大し続けているものと推察される。[br]  所得についても、上位10%の富裕層の増加は、下位10%の貧困層の増加を大幅に上回っていることが報告されている。終身雇用制の時代、日本は「1億総中流社会」と言われ、欧米とは一線を画してきた国であったが、グローバル経済の進行とともに、格差社会へと移行している。その結果、不動産市場にも格差社会の影響が鮮明となってきている。[br]  図表❶は、流通市場における中古戸建てと中古マンションの価格帯別の成約件数(率)を示したものだが、1年前の比較でも、明らかな違いが出ている。低価格帯の成約件数は微増となっているが、高額帯の成約件数は大幅なプラスとなっていて、富裕層の活発な動きが目立っている。大手ハウスメーカーの注文住宅の受注件数を見ても、同様の結果となっている。[br]  また、東京都心の新築分譲マンションの販売状況を見ても、希少性のある都心部の億ションの人気は高く、富裕層はその「価値」で購入する姿勢をとっている。[br]  多額の資産を保有する富裕層は、相続対策による不動産の売買を活発化させ、セカンドハウス・リゾート物件の購入にも積極的に動いている。一方、低所得者層は消費増税後の物価上昇で厳しくなっていて、生活防衛に走り、家賃以下の住宅ローン支払いで住宅を購入する姿勢をとっており、「価格」を重視している。住宅費を低減するための住宅取得の動きは活発で、低価格帯の中古マンションや中古戸建ての取引件数は、横ばいではあるが、高水準で推移している。

    

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地域格差が一段と鮮明に

昨今、東京圏への一極集中が指摘されているが、人口・資金・情報・交通網などのいずれをとっても東京へと向かっている。特に、東京オリンピックの開催が決定して以降、東京の存在感が一段と高まっている。逆に、地方圏では経済力の低下や人口減少に拍車がかかっている。[br]  また、地方では札幌・仙台・広島・福岡などの中核都市への人口集中が顕著になっている。地方圏全体の平均地価は下落傾向にあるが、人口増加が続く中核都市の中心部では、地価の上昇が見られる。さらに、大都市圏でも中心部と郊外との地価の格差が拡大している。経済の高度成長期に地価高騰で中心部から郊外へと拡散していったのとは逆の現象が生まれている(図表❷)。多くの人が「利便性」をより重要視するようになり、中心部、駅近の住居を求めるため、地価の格差が進行している。[br]  また、地域の経済力による格差も目立ってきている。自動車や航空機産業で活況を呈している名古屋圏と、従来、繊維や家電産業で隆盛を誇った大阪圏とでは、地価のトレンドに差が生じ始めている。その背景には、雇用問題があることは言うまでもない。

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世代間の格差も生まれた

現預金と不動産の多くは、「高齢者」が所有している。最近の不動産取引事例を検証してみると、高齢者の存在感は一段と高まっている。自宅の買い替えの多くは高齢者で、老後の生活に向けて動いている。また、自宅のリフォームにも積極的で、高額なリフォームをする例も目立っている。彼らの多くは、住宅ローンの残債もなく、手元に退職金もある。さらに、近年では60歳以上の人が、親の相続財産を受け取る例も増加している。[br]  一方、若年世代では、子供の教育費、物価の上昇などで生活に余裕のある人が少なくなっている。若年層の住宅取得では、親の援助がない限り、高額な住宅の取得は難しく、価格を重視する姿勢は強まっている。建売住宅の主要な顧客は若年層であり、価格設定がズレると売れないことになる。[br]  不動産市場の主たる顧客は、「豊かな高齢者」と「薄給の若年層」ということになる。ただ、実際には高齢者層もまた、豊かな高齢者と生活が厳しい高齢者に分かれているのが現実の姿と言える。いずれにせよ、世代間による「資産格差」は厳然として存在する(図表➌)。

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